第28話:「淡々と依頼をこなすガルド」

 ベルガルドの冒険者ギルドは、いつも通り活気に満ちていた。受付嬢たちは忙しく依頼の処理をしており、その中でセリア・フォルスターも日々の業務に励んでいた。憧れのエリシアに少しずつ仕事を教わりながら、セリアは業務にも慣れ始めていた。


 しかし、彼女が気にかける存在が一人いた。冒険者のガルド。彼はギルドに顔を出すたびに、まるで何も考えずに依頼を受けては、いつも淡々とこなして帰ってくる。セリアにとっては、その無口で怖そうな姿が未だに少し苦手だった。


「あの人、いつも怖い顔して依頼を受けるけど……すごく強いんだろうな……」


 セリアは遠くからガルドの背中を見つめながら、少し複雑な感情を抱いていた。


 ガルドはギルドの掲示板で目を引いたリザード型魔物討伐の依頼を受け、いつものように無言でそれを引き受けた。討伐対象の魔物は、ベルガルド近くのシルバリ山に生息するリザード型の魔物、スケイルリザードだ。


 スケイルリザードは、体長2メートルを超える大型の爬虫類型魔物で、その名の通り、体を覆う強固な鱗を持つ。その鱗は、刃物が簡単に通らないほどの硬度を誇っており、さらに集団で行動することが多い。攻撃力はそれほど高くないものの、素早い動きで獲物を囲い込んで襲う戦術を得意としており、経験の浅い冒険者には厄介な相手だった。


「この程度の魔物なら、手間はかからないな……」


 ガルドは依頼書を渡してからすぐに準備を整え、シルバリ山へ向かって歩き出した。ギルドカウンターでは、セリアがその様子を少し遠くから見守っていた。彼女は、エリシアの横に立って小声で呟いた。


「ガルドさん、またあんなに怖い顔して……本当に無口で無表情ですよね。あんな風に淡々とこなして帰ってくるなんて、すごいけど……」


 エリシアは優しく微笑み、セリアに返した。


「ガルドさんはあれが普通なの。怖そうに見えるかもしれないけれど、彼はとても頼りになる冒険者よ。きっとあなたも、仕事を通じてわかっていくはず」


 セリアはその言葉に少し驚きながらも、エリシアを信じる気持ちを強くした。


 シルバリ山に到着したガルドは、静かに山道を進んでいた。辺りは静まり返っていたが、時折、リザードの鋭い足音が地面に響いていた。ガルドはその音を頼りに、魔物たちが集まっている場所を見つけ出す。


「来るな……」


 ガルドは声を出すことなく、剣を構えた。目の前に現れたのは5体のスケイルリザード。彼らは集団でガルドを囲むように配置し、その俊敏な足で一気に彼に向かって襲いかかってきた。


 スケイルリザードの鋭い爪と強靭な尾を使った攻撃は、スピードが速く、一度に複数の方向から来るため、油断すれば致命傷となる。しかし、ガルドは冷静だった。彼は目でリザードたちの動きを見極め、的確に対応する。


 一体のリザードが横から爪を振り下ろすと、ガルドは素早く剣を振り上げてその攻撃を防ぎ、同時に反撃の一閃を放った。スケイルリザードの硬い鱗を狙って、関節部分に正確に刃を入れることで、動きを封じた。


「次だ……」


 ガルドは無駄な動き一つなく、スケイルリザードたちを一体一体確実に倒していった。彼にとって、これほどの魔物はもはや手慣れたものであり、戦いは淡々と進んでいった。


 スケイルリザードたちを全て倒し終えたガルドは、少しだけ立ち止まり、周囲を確認した。彼にとって、この程度の依頼は日常の一部に過ぎず、特別な達成感はなかった。


「これで依頼は完了だな……」


 ガルドは静かに山を降り、ベルガルドの街へと戻った。依頼を終え、ギルドに戻ると、いつものように無言でカウンターへ向かい、エリシアに完了報告をした。セリアもカウンターの近くでその様子を見ていた。


「もう戻ってきたの? すごい……」


 セリアは心の中で驚きながらも、ガルドの無表情に少し緊張感を覚えていた。彼は一言も言葉を交わさず、エリシアに報告書を渡し、また静かにギルドを後にした。


 エリシアは、セリアに微笑みながら言った。


「ガルドさんはああ見えて、とても信頼できる人なの。少しずつわかる日が来るわよ」


 セリアはその言葉を胸に刻みながら、まだ自分の中にあるガルドへの不安と戸惑いが消えないまま、静かに仕事へ戻った。


 ガルドは再び街の中へと歩き出し、次の依頼のための準備を考えていた。彼にとって、今日の依頼もいつも通りの一日だった。しかし、セリアの視線や彼女の戸惑いには気づいていた。だが、彼はそれを特に気にすることもなく、自らの仕事を淡々とこなしていく。


「また次の依頼だ……」


 ガルドの背中は、いつも通り静かに街へと消えていったが、その背中を見つめるセリアの目には、少しずつガルドへの新たな感情が芽生え始めていた。

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