第27話:「セリアの夢と戸惑い」
ベルガルドでのギルド業務に少しずつ慣れてきたセリアだったが、日々の仕事の中で、彼女の胸にある一つの疑念が大きくなりつつあった。それは、寡黙で怖いと感じていたガルドに対する感情だった。
「ガルドさんって……怖いのに、なんであの時助けてくれたんだろう……」
セリアは、先日魔物に襲われた時の出来事を思い返していた。彼女がエリシアを憧れの先輩として見つめ続ける一方、ガルドの存在は謎めいており、彼の実力や態度がどうしても気にかかっていた。彼女にとって理想の男性像は、まるで王子様のような優雅で気品のある冒険者だったが、ガルドはその真逆ともいえる無骨で強面の冒険者だった。
「それにしても……なんであんなに怖いんだろう……」
そんなある夜、セリアは不思議な夢を見ていた。夢の中で、彼女は再び魔物に追いかけられていた。あの時と同じように、逃げ場のない状況で恐怖に包まれていた。
「助けて……!」
彼女の叫び声が響く中、突然現れたのは、まるで絵本から飛び出してきたような王子様のような人物だった。彼女の理想にぴったりと重なる存在が、魔物から彼女を救い出そうとしていた。
「これで助かる……」
そう思った瞬間、ふとその王子様の姿が変わり、現れたのはまさかのガルドだった。彼の無骨な表情が目の前に現れ、セリアは驚きで声も出せなかった。
「えっ……ガルドさん……?」
しかし、夢の中のガルドは、現実の彼とは少し違っていた。冷たく無愛想な雰囲気ではなく、どこか優しい表情を浮かべ、セリアをしっかりと保護してくれた。
「大丈夫だ、ついてこい」
夢の中のガルドは、彼女を魔物から救い出し、彼女を安全な場所へと導いていった。それはまるで、ガルドがセリアの守護者のように振る舞っているかのようだった。
夢の中で、セリアはガルドに救われ、宿へと導かれた。その姿はいつもの怖いガルドではなく、どこか優しく、穏やかな雰囲気をまとっていた。無言ながらも、彼の存在感には不思議な安心感があり、セリアは夢の中でふと心が落ち着いている自分に気づいた。
「ガルドさんが……優しい?」
彼女は驚きながらも、夢の中のガルドが、彼女を大切に守っているような感覚を覚えた。その温かさに包まれ、セリアは心がふわりと軽くなっていくのを感じた。
しかし、突然、夢の中の空気が変わり、彼女の心に何とも言えない戸惑いが押し寄せてきた。宿のベッドに横たわり、ガルドがそばで見守っているその状況に、セリアは強い羞恥心と混乱を覚えた。
「……!」
突然、セリアは夢の中から目覚めた。彼女はベッドの上で息を切らしながら目を開け、驚きと混乱の中で体を起こした。胸はドキドキと高鳴り、冷たい汗が頬を伝っていた。
「なんで……ガルドさんの夢を……?」
セリアは自分の夢に驚き、そしてなぜ相手がガルドだったのか理解できずに戸惑った。彼女にとってガルドは怖い存在であり、理想の「王子様」からはほど遠いはずなのに、なぜ夢の中で彼が現れ、しかも優しく保護されていたのか。
「もしかして、私、疲れてるのかな……」
セリアは頭を抱えながら、自分が抱いているガルドへの複雑な感情に気づき始めた。あの恐ろしい冒険者に対して、何故か一抹の安心感と親しみを感じている自分がいた。それが、彼女にとってさらに不安であり、戸惑いを引き起こしていた。
セリアはさらに、自分の体に起きた微妙な変化に気づき、頬を真っ赤にした。
「夢の中で……まさか、私が……」
自分が見た夢の内容が、どこか恥ずかしさと混乱を生じさせた。普段冷静でいようとする自分が、こんな夢を見たことに対して強い羞恥心が湧き上がってきた。そして、その相手がガルドだったことが、さらにセリアを混乱させた。
「ガルドさんなんて……そんなはずないのに……」
セリアはその場で自分の頭を軽く叩いて正気に戻ろうとしたが、あまりに力を入れすぎたのか、頭を壁にぶつけてしまった。
「いった……!」
その瞬間、隣の部屋から怒った声が聞こえた。
「何やってるんだ!こんな夜中に騒ぐなよ!」
セリアはその声に驚き、さらに恥ずかしさがこみ上げてきた。顔を真っ赤にして、布団を被りながら自分の行動を反省した。
「私、なんであんな夢見ちゃったんだろう……」
翌朝、セリアは少し目をこすりながら仕事に向かったが、まだ夢のことが頭から離れなかった。ガルドの冷静で無愛想な姿がちらつき、その優しさに触れた夢とのギャップに戸惑いが残っていた。
「私、エリシアさんみたいな素敵な受付嬢になるって決めたのに、どうしてあんな夢を……しかも相手がガルドさんだなんて……」
セリアは胸の内に強い混乱を抱きながらも、何とか気持ちを落ち着けようとする。彼女にとって、ガルドは依然として「怖い冒険者」でありながら、どこか優しさを感じてしまう存在になっていた。
「もう……私、何を考えてるんだろう……!」
セリアは自分の気持ちに整理をつけようと努めながら、いつもの日常に戻ろうとしていた。しかし、ガルドへの複雑な感情は、まだ彼女の胸の中でくすぶり続けているのだった。
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