第24話:「暗森の守護者」
暗森の奥に進むにつれ、レイヴンとミリアは魔力の濃密さが増していくのを感じていた。木々は異様に背が高く、空気が冷たく、ひんやりとした風が肌に張り付く。森はまるで、二人の存在に気づき、警戒しているかのようだった。
「この空気……次はもっと強力な奴が来るわね」
ミリアは周囲を見回しながら、杖を片手にしっかりと握っていた。彼女は主に補助魔法やサポートを得意としており、レイヴンの戦闘を後方から支えていた。二人のコンビネーションは絶妙で、互いの能力を最大限に引き出すことができる。
「この先に守護者がいるって話だったな……よし、行くぞ」
レイヴンが前に進もうとした瞬間、彼らの前に突然、巨大な影が現れた。暗森の真の守護者であるエントだった。エントは全身が苔や木で覆われ、まるで森そのものが具現化したかのような姿をしていた。
「でかい……これは手強そうだな」
レイヴンは剣を構え、一瞬も気を緩めず、ミリアもすぐに魔法の準備を始めた。
エントはゆっくりと腕を持ち上げ、巨大な枝のような腕でレイヴンたちに攻撃を仕掛けてきた。木の枝は強大な威力を持っており、地面に叩きつけられるたびに大地が揺れた。レイヴンはすばやくその攻撃をかわしながら、エントの足元を狙って反撃を試みた。
「くそ……硬すぎる!」
レイヴンの剣はエントの木の外殻に弾かれ、ダメージを与えることができなかった。その時、後方にいたミリアがすばやく補助魔法を唱えた。
「ウィークポイント・エンハンス!」
ミリアの声が響くと、エントの体に僅かな光が宿り、その胸元の部分が微かに光り始めた。ミリアの魔法は敵の弱点を露わにし、レイヴンに有利な状況を作り出すものだった。
「レイヴン、胸の部分が弱点よ!攻撃を集中させて!」
ミリアの魔法で露わになったエントの弱点を見て、レイヴンは素早く距離を詰め、再び剣を振りかざした。今度は狙いを定め、エントの胸部に鋭く剣を突き刺した。
「よし、効いた!」
エントは苦しそうに唸り声を上げ、その巨体を揺らし始めた。だが、それでもまだ倒れはしない。エントの攻撃はさらに激しさを増し、周囲の木々を引き裂きながら再び腕を振り上げた。
「まだよ!レイヴン、動きを止めるわ!」
ミリアは再び魔法を唱え始めた。今度は、エントの動きを封じる魔法、バインディング・ルーツ。森の自然と共鳴する魔法で、エントの足元から生えた木の根が絡みつき、エントの動きを一時的に封じる。
「今よ!動きが止まっている間に!」
ミリアの魔法でエントがその場に縛り付けられている間に、レイヴンは全力でエントの弱点に向かって突進した。彼は再び胸元に狙いを定め、渾身の力で剣を突き立てた。
「これで終わりだ!」
鋭い一撃がエントの核心を貫き、その巨体は揺れながら大地に崩れ落ちた。エントの体が徐々に木に還っていくかのように、森の中に溶け込むように消え去っていった。
エントが消え去った後、森は静寂を取り戻した。レイヴンは疲れた体を一瞬休め、肩で息をしながらミリアに目を向けた。
「助かったよ、ミリア。お前の補助がなかったら、ここまでうまくいかなかった」
ミリアは笑顔でレイヴンの方へ歩み寄り、軽く彼の肩を叩いた。
「ふふ、当たり前でしょ?私がいるから、あんたも無茶できるんだから」
レイヴンは照れ笑いを浮かべながら、ミリアを見つめた。二人はお互いの実力を信頼し合い、どんな危険な状況でも支え合える強い絆を持っている。
「ま、これで一安心だな。暗森の依頼もこれで完了だ」
ミリアは軽くレイヴンの腕に寄り添いながら、少し甘えるように言った。
「私だって頑張ったんだから、後で美味しいご飯でも奢ってよね?」
レイヴンは笑いながら頷いた。
「もちろんだ。今日は俺の奢りで一番良い店に行こう」
二人が暗森から出ようとしていたその時、森の入り口で待っていたのはガルドだった。彼は落ち着いた表情で二人を見つめ、無言で歩み寄ってきた。
「お前たち、無事に依頼をこなしたようだな。どうだった?」
ガルドの静かな問いかけに、レイヴンは満足そうに頷いた。
「なんとか倒したよ。ミリアのおかげでうまくいった」
ガルドは微笑みながらも、少しだけ複雑そうな表情を浮かべていた。
「まぁ、ミリアの力も見事だが……レイヴン、お前もまだ成長できる余地がある。過信するなよ」
ガルドの言葉には優しさと経験から来る重みがあった。レイヴンはその言葉を深く心に刻み、さらに精進することを決意した。
「分かってるさ、ガルド。ありがとうな」
ミリアもガルドに向かって軽く微笑み、礼を言った。
「ガルドさん、いつも気にかけてくれてありがとう」
こうして、レイヴンとミリアは暗森での依頼を無事に終え、街へと戻る道を歩み始めた。春の息吹が少しずつ近づく中で、二人は次なる冒険に向けて準備を整えていくのだった。
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