第23話:「レイヴンの挑戦」

 冬の終わりが近づく頃、ベルガルドの街は冷たい風に包まれながらも、春の訪れを予感させる空気が漂っていた。冒険者たちは次々と依頼をこなし、忙しい日々を過ごしていた。そんな中、レイヴンは、ギルドで新たな挑戦を探していた。


 彼の隣には、いつも一緒に依頼をこなしている恋人のミリアがいる。ミリアはレイヴンと同じBランクの冒険者で、二人は息の合ったコンビとしてギルドでも有名だった。


「ねぇ、レイヴン。今日はどんな依頼を選ぶの?」


 ミリアが軽い口調で尋ねると、レイヴンはギルドの掲示板を見上げながら肩をすくめた。


「どうせなら、ちょっと骨のある依頼がいいな。最近、簡単な仕事ばっかりだったからさ」


 ミリアはくすっと笑い、レイヴンの腕に軽く寄り添いながら言った。


「私と一緒なら、何だってこなせるでしょ?」


 レイヴンは少し照れたように微笑みながら、横目でミリアを見た。彼女はいつも冷静で、時にはレイヴンよりも先に敵の動きを見抜く鋭い感性を持っている。それが、彼女と一緒にいることの心強さだった。


 その時、ギルドのカウンターにいたエリシアが、二人に声をかけた。


「レイヴンさん、ミリアさん、ちょうどお二人にぴったりの依頼がありますよ」


 エリシアが差し出したのは、暗森の守護者という依頼だった。暗森はベルガルドから少し離れた場所にある広大な森で、古代の魔力が漂う危険な場所だった。最近、森の中で異常な魔物の活動が報告され、村人たちが恐怖に怯えているという。


「暗森か……これは少し厄介そうだな」


 レイヴンは少し真剣な顔つきで依頼書に目を通しながら呟いた。一方、ミリアはそんな彼を見つめながら、あまり深刻な表情を見せず、微笑んでいた。


「また二人で挑むにはちょうどいい依頼ね」


 レイヴンはミリアの言葉に同意するように頷いた。彼らはお互いの力を信じ合っている。レイヴンは戦闘力に自信があり、ミリアは戦場での洞察力に優れていた。二人が組めば、どんな危険な依頼でも乗り越えられるという確信があった。


「よし、これに決めた。暗森の守護者、俺たちでやる」


 レイヴンがエリシアに向かってそう告げると、彼女は微笑みながら彼らに注意を促した。


「暗森は魔力が強い場所ですから、慎重に行動してくださいね。無理はしないように」


 暗森は、ベルガルドから半日の距離にある古代の森だ。多くの冒険者が過去に挑んできたが、強力な魔物や自然の障害が多く、難易度の高い依頼が多い場所だった。


「ミリア、準備は万全か?」


 レイヴンは森の入り口に立ち、横にいるミリアを見た。彼女は頷きながら短剣を手に取り、装備を整えていた。


「もちろん。私たちなら問題ないわ」


 二人は森の中へと足を踏み入れた。森の奥へ進むにつれて、周囲の空気が重く感じられ、異様な静寂が広がっていた。鳥の鳴き声すら聞こえず、魔物が潜んでいる気配が漂っている。


「油断するなよ、何が出てくるかわからない」


 レイヴンが言葉を口にしたその瞬間、森の茂みから突然巨大な魔物が飛び出してきた。それは、全身が硬い甲殻に覆われた森のゴーレムだった。


「来たか……ミリア、あいつを狙うぞ!」


 レイヴンは剣を構え、ゴーレムに向かって突進した。ミリアは素早くその背後に回り込み、敵の弱点を探していた。


「レイヴン、左の膝!そこが弱いわ!」


 ミリアの鋭い洞察がレイヴンに届き、彼は彼女の指示通りにゴーレムの左膝を狙って剣を振り下ろした。鋭い一撃がゴーレムの膝を砕き、魔物は重く崩れ落ちた。


「よし、決まりだ」


 レイヴンは勝利の余韻に浸りながら、ミリアの方を振り返った。ミリアも微笑みながら近づいてきた。


「うん、さすがレイヴン。これで一歩前進ね」


 二人は軽くハイタッチを交わしながら、次の敵に備えた。こうして彼らは力を合わせ、暗森の守護者たちとの戦いを続けていく。


 戦闘の合間、二人は森の静かな一角で少し休憩を取ることにした。レイヴンは剣を手入れしながら、ミリアに目を向けた。


「こうして一緒に戦うのも悪くないな。ミリアがいると、どんな敵でも倒せる気がする」


 ミリアは微笑みながら、少し照れたように目を逸らした。


「もう、そんなこと言わないでよ。いつもは強がってるくせに、こういう時だけ甘いんだから」


 レイヴンは冗談混じりに笑い、軽く肩をすくめた。


「お前がいるからこそ、俺は強くいられるんだよ」


 ミリアはそんなレイヴンの言葉に顔を赤らめ、軽く彼の腕を叩いた。


「ほんとにもう……でも、ありがとう。私もレイヴンと一緒だと安心できる」


 こうして、二人は戦いの合間に少しだけ甘い時間を共有しながら、次の戦いに備えて心を落ち着けていった。


 暗森での戦いを続ける中、ふと森の奥から聞き慣れた足音が聞こえてきた。レイヴンが振り返ると、そこにはガルドの姿があった。


「やっぱりお前たちがここに来てたか。暗森の守護者を相手にしているんだろ?」


 ガルドはいつもの落ち着いた表情で、二人に声をかけた。レイヴンは少し驚きつつも、軽く笑った。


「ガルドさん、どうしてここに?」


「たまたま別の依頼でこっちに来ていたんだ。お前たちがうまくやってるか気になってな」


 ガルドは二人にアドバイスをしつつ、すぐに戦いに加わるわけでもなく、あくまで「添えるだけ」で彼らを見守る役割を果たしていた。


「まあ、俺がいなくてもお前たちなら問題ないだろうが、くれぐれも気をつけろよ」


 そう言い残し、ガルドは静かに森の入り口へと歩いていった。レイヴンとミリアはガルドの背中を見送りながら、再び戦いへと気持ちを引き締めた。



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