第22話:「花竜の宴と新たな門出」

 芽竜の月が終わり、ベルガルドの街には暖かい風と共に花竜の月が訪れていた。この月は、冬を超えた自然が一斉に咲き誇る時期であり、街全体が花に包まれるようになる。特に、花竜の月10日には街を挙げての一大イベント、「花竜の宴」が行われ、街の住民も冒険者たちもこぞって参加し、春の訪れを祝う。


 ベルガルドの街は華やかな花で飾られ、色とりどりの花々が街中に咲き誇っていた。街の中心広場では、宴に向けて住民たちが花を飾り付け、屋台や舞台が次々と設置されていた。冒険者たちも普段の厳しい仕事を離れ、この特別な日を楽しむために準備を進めていた。


「今日はいい日になりそうだな」


 ガルドは、広場を見渡しながら静かに呟いた。彼は花竜の宴の時期が特に好きだった。冒険者としての忙しい日々を少しだけ忘れ、街全体が一つになって笑顔で過ごすこの祭りは、ガルドにとって貴重なリフレッシュの時間でもあった。


 ガルドはこの日のために、いつもお世話になっている人たちへ贈る花を買いに花屋へ立ち寄った。特に、エリシアには一輪の特別な花を贈ろうと決めていた。店先には色鮮やかな花々が並び、彼は少し照れくさそうに花を選んでいた。


「エリシアにはどんな花がいいかな……いや、きっとどれを贈っても喜んでくれるはずだ」


 花竜の宴が始まり、街の住民たちは皆、思い思いに楽しんでいた。屋台の食べ物や、歌や踊りのパフォーマンスが広場を彩り、冒険者たちも普段の緊張感から解放され、リラックスして過ごしていた。


 ガルドも広場でエリシアと合流し、一緒に祭りを楽しんでいた。エリシアはいつもより少し華やかな服装をしており、ガルドはその姿に見惚れていた。


「ガルドさん、今日は特別ですね。こんなに花が綺麗だなんて……」


「そうだな……お前には、この花を贈ろうと思ってたんだ」


 ガルドは、先ほど選んだ花をエリシアに手渡した。エリシアは驚きながらも、喜びの表情を浮かべ、丁寧に花を受け取った。


「ありがとうございます、ガルドさん。とても嬉しいです」


 二人はその後も広場を歩きながら、花竜の宴の雰囲気を満喫した。街の住民たちの笑顔が溢れる中、ガルドは普段の冒険者としての厳しい顔を少しだけ緩め、エリシアとの穏やかな時間を楽しんだ。



※※※



 一方、王都ラーナストールでは、新人受付嬢としての講習を終えたセリアが、配属先に向かう前の最後の休日を過ごしていた。芽竜の月から始まった厳しい講習をなんとか乗り越え、いよいよ次のステップへ進むことが決まった彼女は、この日を自分のリフレッシュに使うことにした。


「今日が、王都での最後の休日かぁ……」


 セリアは、少しセンチメンタルな気持ちで王都の街を歩いていた。子どもの頃からこの街で過ごしてきた彼女にとって、これから新しい街に行くことは大きな冒険であり、期待と不安が入り混じった気持ちだった。


「でも、これからは憧れのエリシアさんがいるベルガルドで働くんだ!頑張らなくちゃ!」


 セリアは小さな拳を握りしめ、自分に言い聞かせるように元気を出した。王都での講習では、失敗も多かったが、先輩たちの温かいサポートのおかげで何とか成長できた。次に向かうベルガルドのギルドでは、エリシアのような一流の受付嬢になることがセリアの大きな目標だった。


 セリアは王都の喧騒の中、幼い頃からよく訪れていた小さなカフェで最後の一杯を楽しんでいた。


「ここでの思い出も、たくさんあるなぁ……でも、これからは新しい街で新しい冒険が待ってる!」


 彼女はカフェの窓から外の景色を眺めながら、次のステージに思いを馳せていた。王都での講習を終えた後、次の配属先は憧れのベルガルド。芽竜の月が終わり、花竜の月と共に新たな生活が始まるのだ。


「エリシアさんみたいに、強くて優しい受付嬢になるんだ。これから頑張らなくちゃ!」


 いよいよセリアが王都を離れる日がやってきた。彼女は、ギルド協会の先輩たちに見送られながら、荷物を持って馬車に乗り込んだ。王都からベルガルドまでは馬車で数日かかるが、彼女は新しい冒険に心を躍らせていた。


「ベルガルド……どんな街なんだろう?エリシアさんは優しいって聞いてるし、あの街の冒険者たちもきっと素敵な人ばかりだよね」


 セリアは窓から見える景色を眺めながら、胸の中で期待を膨らませた。彼女の目標は、エリシアのような冒険者に信頼される受付嬢になること。これから始まる新しい生活は、セリアにとって大きな挑戦となる。


「よし!これから新しい冒険が始まるんだ!頑張らなくちゃ!」


 セリアは元気いっぱいに笑顔を浮かべ、馬車は次第に王都を離れていった。そして、憧れのエリシアがいるベルガルドに向かって進んでいく馬車の中で、彼女は新しい決意を胸に刻んだ。



※※※




 ベルガルドの街では、花竜の宴が終わり、街が穏やかな春の陽気に包まれていた。新たな冒険者や受付嬢がギルドに配属される季節であり、街にはフレッシュな雰囲気が漂っていた。


 そして、セリアもまた新しい街での一歩を踏み出す。彼女の目の前には、新たな仲間や冒険が待っている。


「花竜の月……新しい始まりの季節だね」


 セリアの新しい物語は、ここから始まる。

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