第21話:「ドジっ娘セリアの冒険者ギルド新人講習」

 芽竜の月は、新しい命が芽吹く季節。王都ラーナストールでは、春の暖かい風が街を包み込み、冒険者ギルド協会の門もまた新人たちを迎え入れる準備が整っていた。特に、各地のギルド受付嬢候補が集まるこの季節は、未来のギルドの支え手たちが集い、講習を受ける大切な時期でもある。


 そんな中、王都の冒険者ギルド協会に足を踏み入れたのが、セリア・フォルスターだ。彼女は受付嬢を目指して、ついに待ちに待った新人講習に参加することになった。


「ううう……大丈夫かなぁ。みんな優秀そうだし、私、迷惑かけちゃわないかな……」


 セリアはギルド協会の広いホールに立ち、少しソワソワしながら周囲を見渡していた。憧れの冒険者ギルド受付嬢になるために、ここまで頑張ってきたのだが、実際に他の新人たちと比べると不安が募るばかりだ。


「よーし!でも、気合い入れて……うわぁ!」


 セリアが気合いを入れ直したその瞬間、後ろに置かれていたイスに足を引っかけてしまい、そのまま倒れそうになった。しかし、近くにいた別の新人受付嬢が素早く手を伸ばし、セリアを支えてくれた。


「だ、大丈夫ですか?」


「わ、わわっ!ありがとう!ご、ごめんね!ちょっと焦っちゃって、ついドジしちゃった……」


 笑いながら自分の服を整えたセリアは、少し照れながらお礼を言った。ドジっぷりを発揮してしまったが、彼女の元気な性格と明るい笑顔に、周りの新人たちもすぐに打ち解けてくれた。


「もう、しっかりしなきゃ……よし、次こそは失敗しないぞ!」


 講習が始まると、協会の先輩受付嬢たちがセリアたち新人を迎え、ギルドの役割や受付嬢としての心構えを丁寧に教えてくれた。講習の内容は、事務作業、冒険者の支援、クエストの管理、報酬の計算など多岐にわたり、事務処理に関する知識だけでなく、冒険者たちとコミュニケーションをとる際のマナーや心得も学ぶ必要があった。


「えっと……この書類は、こうやって……あれ?どこにサインするんだっけ?」


 セリアは講師が説明する書類整理の手順に苦戦していた。受付嬢の仕事は思っていた以上に複雑で、セリアは焦ってしまい、つい書類の順番を間違えてしまう。


「ちょっと待って……えっと、ああ!違う!これがこっちで、こっちは……」


 周囲の新人たちはスムーズに作業を進めている中、セリアは焦りと混乱の渦に巻き込まれていた。隣にいた新人仲間がその様子に気づき、声をかけた。


「セリアさん、これ、こうするとわかりやすいよ」


「えっ?あ、ほんとだ!わ、ありがとう!すごく助かった……やっぱり、ちゃんと覚えなきゃなぁ」


 セリアは助けてもらったことに感謝しつつ、なんとか作業を終えた。失敗は続くものの、彼女はへこたれることなく、前向きな気持ちを忘れなかった。


「ふぅ、まだまだ覚えることがいっぱいだ。でも、がんばらなくちゃ……いつか、私もエリシアさんみたいな立派な受付嬢になりたいんだから!」


 セリアにとって、冒険者ギルド受付嬢の先輩であるエリシア・フェルガスは、ずっと憧れの存在だった。彼女の凛とした姿勢や、冒険者たちへの気配り、そして優れた対応力に、セリアは感銘を受けていた。講習中も、エリシアのような存在になれるよう、一生懸命頑張ろうとする気持ちがセリアを支えていた。


「エリシアさんも、きっと最初はドジしてたかもしれないよね。えっと、そしたら、私もまだまだチャンスが……!」


 セリアは自分に言い聞かせながら、また次の課題に取り組むためにペンを持った。


 新人受付嬢の講習は、書類整理やマナー講習だけでなく、実践的な訓練も含まれていた。ある日、セリアたちは模擬ギルドでの接客対応を学ぶため、講師が用意した冒険者役のスタッフ相手に、クエストの受付や報酬の支払いなどを行うことになった。


「よし、今度こそスムーズにできるように……えっと、まずは挨拶ね」


 セリアは緊張しながらも、気合いを入れてカウンターに立った。そして、冒険者役のスタッフがクエストの依頼書を出すと、少しおどおどしながらも丁寧に対応し始めた。


「こちらの依頼は、えっと……森での薬草採取ですね!報酬は、あの、えっと……あれ?どこだっけ?」


 焦ったセリアは報酬のリストを探し、ページをめくるうちに手元の書類がばさばさと床に落ちてしまった。彼女は慌てて拾い集めたが、スタッフは微笑んでセリアを見守っていた。


「大丈夫、大丈夫!私は頑張ってるんだから!」


 一生懸命さが伝わり、周囲のスタッフも温かい目でセリアを見守った。彼女のドジっぷりは相変わらずだが、周囲のサポートを受けながら少しずつ成長していく姿に、他の新人たちも応援の気持ちを抱くようになっていた。


 講習の終わりに、セリアはふと自分が少しだけ成長していることに気づいた。まだまだドジばかりだが、それでも一歩一歩前に進んでいる実感があった。講師たちもセリアの一生懸命さを評価し、彼女の未来に期待している。


「よーし!明日も頑張るぞ!ドジでも、何度でもやり直せばいいんだから!」


 セリアは明るく前向きな気持ちで、冒険者ギルド受付嬢としての道を一歩ずつ歩んでいく。


 セリアはこれからも失敗を重ねながらも、笑顔と明るさを武器に成長していく姿を見せてくれるだろう。

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