第18話:「風竜の月、銀霜の森と氷結の精霊」

 風竜の月の始まりは、厳しい冬の寒さと共にやってくる。ベルガルドの街では、冷たい風が吹きすさび、街の住人たちは冬の終わりを待ちながらも、強風と低温に耐えなければならなかった。風竜の月は、春が訪れる前の最後の厳しい月であり、特に北の森や山では、雪や氷が依然として支配的だった。


 そんな時期に、ガルドはギルドで新たな依頼に目を通していた。掲示板に貼られていたのは、銀霜の森での調査依頼だ。依頼内容は、風竜の月に現れる氷結の精霊を討伐するものだった。銀霜の森は、冬になると氷の魔力が満ちると言われ、特に氷結の精霊が力を得る場所として知られていた。


「氷結の精霊か……寒さも厳しいし、ちょっとした挑戦になりそうだな」


 ガルドは、少し楽しそうにその依頼書を手に取り、カウンターにいるエリシアのもとへ向かった。


 銀霜の森はベルガルドから北にある広大な森林で、冬の間は分厚い雪に覆われ、その厳しい寒さと荒れた環境から、多くの冒険者が敬遠する場所だった。風竜の月は、特にその風の冷たさが一層強くなり、雪が解ける気配すら見せない季節でもある。


 ガルドは装備を整え、新しいスティールブルーの剣を腰に携え、銀霜の森へ向かうことにした。森は深く、風が木々を揺らすたびに、雪がちらちらと舞い落ち、静寂を破るかのように風の音が森全体に響いていた。


「銀霜の森か……ここに氷結の精霊がいるというのは、確かに納得できる場所だな」


 ガルドは雪深い森の中を進みながら、氷結の精霊の気配を探していた。風竜の月の厳しい風は彼の頬を切るように冷たく、体力を消耗させるが、ガルドはその風に立ち向かいながら、精霊が潜む場所へと足を進めた。


 ガルドが森の奥深くへと進むと、周囲の温度がさらに下がり、空気が凍てつくような冷たさに包まれていった。そして、前方にある広場のような場所に出た時、彼はその中心で漂う氷結の精霊の姿を目にした。


 その精霊は、氷の結晶でできた美しい姿をしていたが、その存在感は強力な魔力を帯びており、見る者に威圧感を与えていた。氷結の精霊は周囲の氷を操り、まるで冷たい風と共鳴するかのように、静かに舞いながらガルドの方を向いた。


「やはりいたか……」


 ガルドは剣を抜き、氷結の精霊に向かって慎重に歩を進めた。精霊は静かに彼を見つめていたが、次第に周囲の氷の結晶が激しく振動し始め、空中に浮かび上がった。そして、精霊が片手を振りかざすと、その氷の結晶が一斉にガルドへと向かって飛びかかってきた。


「なるほど、攻撃的だな……」


 ガルドは素早く剣を構え、スティールブルーの剣で氷の結晶を弾き返しながら、精霊との距離を詰めていった。しかし、氷結の精霊は単なる物理攻撃だけではなく、周囲の空気をさらに冷却し、氷の槍や冷気の嵐を巻き起こして次々とガルドに襲いかかってきた。


 氷結の精霊は非常に強力で、その魔力は周囲を凍りつかせ、さらに冷気を纏った攻撃でガルドを追い詰めていた。ガルドは次々と繰り出される攻撃をかわしながらも、精霊の動きを見極め、反撃のタイミングを伺っていた。


「この剣なら……きっと効くはずだ」


 ガルドは、新しく手に入れたスティールブルーの剣をしっかりと握りしめた。この剣は、特に寒さや冷気に対して強い性質を持っており、氷結の精霊との戦いでも十分に通用するだろうという自信があった。彼は精霊が再び冷気を溜め込んだ瞬間を見逃さず、素早く前へと飛び込み、その剣を精霊の本体へと突き刺した。


 スティールブルーの剣は、氷のように硬い精霊の体に深く突き刺さり、強い魔力に対抗するように輝きを放った。その瞬間、氷結の精霊は驚くほどの勢いで魔力を放出しながらも、次第に力を失っていった。


「よし、これで……」


 ガルドは一気に剣を引き抜き、精霊にとどめを刺した。氷結の精霊はその場で砕け散り、氷の結晶が霧散するように消え去った。


 氷結の精霊を討伐したガルドは、銀霜の森を後にしてベルガルドの街へと戻った。冷たい風が吹き荒れる中、彼は一瞬、森の奥にある何かに導かれるような感覚を覚えたが、それが何であるかはわからなかった。


「銀霜の森も……まだまだ謎が多いな」


 ガルドは街へと帰還し、ギルドに戻るとエリシアに討伐完了の報告をした。


「氷結の精霊が現れる場所……冬の間は気をつけておいた方がいいかもしれないな」


「ガルドさん、無事で何よりです。この時期の依頼はいつも以上に危険ですから……」


 エリシアは微笑みながらも心配そうにガルドを見つめた。風竜の月は厳しい寒さと強い風が冒険者たちを試す季節だったが、ガルドにとってそれもまた一つの試練であり、彼にさらなる成長を促す機会でもあった。


「次に何が来るかはわからないが、この剣があれば何とかなるさ」


 ガルドはスティールブルーの剣を見つめ、また新たな冒険に向けて気持ちを新たにした。

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