第17話:「下水道の影、隠された危機」
ベルガルドの街は美しい街並みと清潔な環境が特徴だったが、それを支えていたのは複雑な下水道システムだった。街の地下に広がるこの迷路のような下水道は、街の排水を処理し、汚物を川や外部へと流す重要な役割を果たしていた。しかし、最近になって下水道で奇妙な現象が相次いで報告されるようになった。
「下水道の奥から異臭がする」「奇妙な音が聞こえる」などの住民の報告がギルドに寄せられ、ついに調査依頼が出されることになった。下水道は普段冒険者が足を踏み入れる場所ではなかったが、そこには何か不気味な存在が潜んでいるのかもしれなかった。
ギルドでは、この下水道の異変調査の依頼に対して、Cランクの冒険者が選ばれることになり、ガルドはその候補に真っ先に挙げられた。
「下水道か……あまり気が進まないが、街のためなら仕方ないな」
ガルドはエリシアの手渡す依頼書を見ながら、苦笑いを浮かべた。彼はこれまで数々の危険な場所で依頼をこなしてきたが、下水道は臭いも危険も多く、正直なところあまり関わりたくない場所だった。
「すみませんね、ガルドさん。でも最近、下水道で何か問題が起きているのは事実ですし、調査が必要なんです。あまり大きな危険はないと思いますが……」
エリシアは申し訳なさそうに言いながら、ガルドを見つめた。ガルドは肩をすくめつつ、依頼書にサインした。
「わかったよ。とりあえず行ってみるさ。何かあれば対応する」
ガルドはベルガルドの下水道へと足を踏み入れた。地下へ続く暗い石造りの階段を下りると、ひんやりとした空気とともに湿気が漂い、鼻を突くような異臭が漂っていた。下水道は長い年月を経て、内部が湿り気に覆われ、カビや苔が壁に広がっていた。ガルドは新たに作らせたスティールブルーの剣を腰に下げ、警戒を緩めずに奥へと進んでいった。
「なるほど……確かに、普通の場所じゃないな」
下水道は広く、複雑に入り組んだトンネルが迷路のように伸びていた。ガルドは手元の地図を頼りに、奥深くまで進んでいく。依頼では「異臭のする場所」として特定のエリアが示されていたが、それ以外にも危険が潜んでいる可能性があった。
数分進んだところで、彼は微かな音を耳にした。水が流れる音に混じって、何かが蠢くような、どこか生き物の気配を感じさせる不気味な音だった。
「これは……やはり何かいるな」
ガルドは剣を抜き、慎重に音の発生源へと近づいていった。
ガルドが音を追いかけると、暗いトンネルの奥に広がる大きな水たまりが見えてきた。そして、その水たまりの中からゆっくりと姿を現したのは、異形の魔物スライムボアだった。スライムボアは巨大な豚の形をした魔物で、体全体が粘液に覆われていた。普通の武器ではそのヌルヌルした体に攻撃を当てることが難しく、しかも腐敗した汚物や毒を持つ液体を吐き出してくる厄介な敵だった。
「やっぱりか。下水道にこんな厄介な奴が潜んでるとはな……」
ガルドは剣を構え、スライムボアとの戦闘に備えた。スライムボアは低い唸り声を上げながら、ガルドに向かって突進してきた。ガルドは素早くその攻撃をかわし、反撃のチャンスを狙ったが、スライムボアの体は柔らかく、通常の剣では切り裂くことが難しかった。
「普通の剣じゃ駄目か……でも、このスティールブルーの剣なら……!」
ガルドは新しい剣を強く握りしめ、全力でスライムボアに向かって剣を振り下ろした。スティールブルーの剣は、硬度と切れ味に優れた強力な武器であり、スライムボアの粘液で覆われた体にも効果的だった。剣が魔物の体を深く切り裂き、スライムボアは苦しそうに後退した。
「よし、効いてる!」
ガルドは再び攻撃を仕掛け、スライムボアにとどめを刺した。魔物は崩れ落ち、粘液とともに地面に広がり、その姿を消していった。
スライムボアを倒したガルドは、周囲を見回して異常がないかを確認した。しかし、まだ何かが終わっていないという予感が胸に残っていた。下水道にはさらなる危険が潜んでいるのではないか――そんな直感が働いたのだ。
「これで終わりじゃなさそうだな……」
ガルドはさらに奥へと進んでいった。そして、下水道の一角で異臭の原因となっている腐敗したゴミの山を発見した。ゴミの山からは異常な量の汚水が流れ出し、その周囲には小さなスライムがうごめいていた。
「どうやらここが異臭の原因か……けど、ただのゴミにしては不自然だな」
ガルドがさらに調査を進めていると、突如として地下が揺れ、大きな音が響いた。何かが崩れる音とともに、地下深くから別の存在が目を覚ましたかのようだった。
「……またかよ、なんなんだこれは」
下水道の奥から現れたのは、スワンプドラゴンという巨大な泥竜だった。スワンプドラゴンは下水道の汚水や泥を取り込み、その体を強化している。体は腐敗した水と泥に覆われており、吐き出す泥のブレスは毒性が強く、一撃で冒険者を窮地に追い込む危険な魔物だった。
「まさかこんな奴まで潜んでるとはな……!」
ガルドは警戒しつつ、スティールブルーの剣を握り直した。スワンプドラゴンはその巨体を揺らしながら、ガルドに向かって泥のブレスを吐き出した。ガルドは素早くかわし、スワンプドラゴンの巨体に剣を打ち込むチャンスを探した。
「こいつは今までとは違う……でも、この剣なら!」
ガルドはスティールブルーの剣を振り上げ、スワンプドラゴンの硬い鱗に一撃を加えた。剣の強力な一撃がドラゴンの外皮を砕き、泥の下に隠された本体を切り裂いた。
スワンプドラゴンは苦しそうに吼え声を上げ、ガルドに反撃しようとしたが、彼は素早く距離を取り、再び攻撃を繰り出した。スティールブルーの剣はドラゴンの硬い外殻に対しても十分な効果を発揮し、最終的にはスワンプドラゴンを倒すことに成功した。
スワンプドラゴンを倒した後、ガルドはギルドに戻り、エリシアに調査結果を報告した。異臭の原因はスライムボアやスワンプドラゴンといった地下に潜んでいた魔物たちであり、それらが倒されたことで下水道は再び安全な場所となった。
「これで街は少しは平穏を取り戻せるだろう」
ガルドは新たな剣の手応えを感じながら、エリシアに笑みを見せた。彼にとってこの依頼はただの下水道の調査に過ぎなかったが、スティールブルーの剣の真の力を実感する貴重な機会でもあった。
エリシアは微笑んでガルドの報告を聞きながら、彼の無事を心から喜んでいた。
「ありがとう、ガルドさん。これで街も安心できますね」
こうしてベルガルドの街に再び平和が戻った。しかし、ガルドはこれがただの始まりに過ぎないことを感じていた。新たな敵、新たな冒険が、彼を待ち受けているに違いない――その時のために、ガルドはさらなる力を磨き続けることを決意した。
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