第16話:「採掘場での新たな出会いと武器」

 ベルガルドの冒険者ギルドに、新しい依頼が舞い込んできた。街から少し離れた場所に位置するコルニス鉱山で、特定の貴重な鉱石を採取するというものだ。この鉱山はかつて大規模な採掘が行われていた場所で、いまでも冒険者たちの協力を得て採掘が続けられている。特にこの時期、スティールブルー鉱石と呼ばれる高硬度の金属を含む鉱石が取れることで有名だった。


 スティールブルー鉱石はその名の通り、青みを帯びた鉄鉱石であり、非常に硬く、加工することで強靭な武器や鎧を作ることができる。しかし、採取には熟練の技術が必要で、さらに鉱山にはいくつかの危険が潜んでいたため、冒険者たちの護衛が必要とされることが多かった。


 ガルドは依頼掲示板に貼られたその採掘場の依頼を見つめながら、少し悩んだ。最近はギルドの仕事も安定しており、エリシアからも大きな依頼は少し休んだ方がいいと言われていたが、鉱山の依頼は彼にとって興味深かった。特に、スティールブルー鉱石の採掘は、冒険者の間でも稀にしかチャンスがない。


「どうするかな……採掘はあまり得意じゃないが、やってみるのも悪くない」


 ガルドは依頼を受けることに決め、装備を整えて鉱山へと向かうことにした。


 コルニス鉱山はベルガルドから北へ1日の距離に位置する古い採掘場だ。数十年前までは大規模に採掘が行われていたが、資源が減少したことやモンスターの増加により、一時的に閉鎖されていた。しかし、ここ数年、再び貴重な鉱石が発見されたため、再び採掘が開始されていた。


 鉱山の内部には、いくつかの層に分かれた鉱脈があり、特に深層部には以下のような鉱物が採れるとされている。


スティールブルー鉱石:非常に硬い青みがかった鉄鉱石で、強力な武器や防具を作るのに使われる。この鉱石は希少で、採掘が難しいことから非常に高価。

クリスタルライト鉱石:透明な結晶状の鉱石で、魔法の触媒や強力な魔力を込めたアイテムの材料として使用される。見た目が美しいため、装飾品としても人気がある。

ブラックオニキス鉱石:黒く艶やかな鉱石で、魔術師たちの間では魔力を封じ込める素材として重宝される。魔法の道具や武具の補強材に使われることが多い。


 コルニス鉱山の内部には、長年放置されていた影響で魔物たちが住みつくようになっていた。特に、鉱山の深部には鉱石の魔力に引き寄せられたモンスターが頻繁に出現するようになり、採掘に訪れた者たちを襲うことがあった。そのため、鉱山での採掘には、冒険者の護衛が必須だった。


 ガルドは、ギルドからの依頼を受け、現地に向かう途中で、他の冒険者や採掘者たちと合流した。彼らは、鉱山の深部で貴重な鉱石を掘り出すために、ガルドの護衛に期待していた。


 ガルドと一緒に依頼を受けたのは、鉱石採取に長けたデルカ・ハーヴィスという中年の鉱夫だった。デルカは鉱石の見極めに長け、特にスティールブルー鉱石の発見に対して情熱を燃やしていた。


「ガルドさん、あんたが護衛でいてくれるのは心強い。ここ最近、鉱山の奥で妙な気配がしててな……。まぁ、こっちのスティールブルー鉱石を採り出すのが俺たちの仕事だが、何かあればあんたに頼るしかねぇ」


 デルカは鉱山の入り口で自らの装備を確認し、ガルドに向かって笑みを浮かべた。ガルドはその様子を見ながら、落ち着いた態度で応じた。


「任せてくれ。俺は採掘のことは素人だが、敵が来れば対処する。採掘はそっちの専門だろ?」


「もちろんさ! ただ、気をつけてくれ。鉱山の奥には『ストーンビースト』っていう岩の魔物が潜んでることがあるんだ。奴らは鉱石を取り込んで体を強化する性質があって、硬い岩の外殻で守られている。普通の武器じゃ通用しねぇこともある」


 ガルドはその言葉に頷き、剣を確認した。彼の剣は長年使ってきたもので、少しずつ磨耗が見えていたが、それでもこれまでの数多の戦いを共に乗り越えてきた愛用品だった。


 鉱山の奥へ進むにつれて、空気は冷たく重くなり、周囲の空気がどこか張り詰めたものに変わった。デルカは慎重にスティールブルー鉱石の鉱脈を探しながら作業を進めていたが、その最中にガルドは微かな振動を感じ取った。


「……何か来るかもしれない。警戒しておけ」


 ガルドがデルカに警告した瞬間、トンネルの奥から重々しい音が響いてきた。そして、闇の中から現れたのは、巨大な岩の魔物ストーンビーストだった。体は岩で覆われ、目には鮮やかな緑の光が宿っていた。その姿は恐ろしく、まさに鉱山の中に生まれた自然の脅威といえる存在だった。


「くそっ、あいつか! ストーンビーストだ、ガルド!」


 デルカが叫ぶと同時に、ストーンビーストはゆっくりとこちらに向かって歩みを進めた。ガルドはすぐに剣を構え、前に出た。


「お前は下がってろ。こいつは俺がやる」


 ストーンビーストの一撃は重く、硬い外殻が攻撃を弾くように見えた。ガルドは正確に攻撃を繰り出すが、剣の刃は魔物の岩肌に大きなダメージを与えることができず、逆に剣が少しずつ削られていった。


「これは……厄介だな」


 ガルドは冷静に状況を分析し、ストーンビーストの弱点を探ろうとしたが、魔物は硬い外殻で守られており、簡単に倒せる相手ではなかった。


 ガルドは何度もストーンビーストの外殻に攻撃を繰り出し、ついに魔物の一部に亀裂を生じさせることに成功した。しかし、その瞬間、ガルドの剣が激しく岩にぶつかり、刃が折れてしまった。


「……くそっ、これじゃ使い物にならない」


 愛用していた剣が壊れ、ガルドは少しだけ動揺したが、すぐに冷静さを取り戻した。彼はその場にあった岩を拾い上げ、ストーンビーストの頭部に投げつけ、魔物の注意をそらした。


「まだ終わりじゃない……武器がなくても、なんとかするしかないか」


 ガルドは手近にあったピッケルを使い、なんとかストーンビーストに応戦しようとしたが、それでも硬い外殻を貫くには至らなかった。ストーンビーストはその巨大な拳を振り下ろし、ガルドはギリギリのところでそれをかわしたが、次第に体力が削られていった。


「まずい、時間がない……」


 ガルドは焦りを感じながらも、冷静に周囲を見渡し、何か打開策を探していた。そして、ふとデルカが興奮した声を上げた。


「ガルド! あそこだ! スティールブルー鉱石の塊だ! あれを使え!」


 ガルドはデルカの指差す方向を見ると、青く光る鉱石が岩壁に埋まっているのを発見した。彼は急いでその方向に駆け寄り、鉱石を手に取った。


 ガルドはスティールブルー鉱石を手にし、それを武器として使うことを決断した。彼はその鉱石を即興でハンマーのように握りしめ、再びストーンビーストに向かって突進した。


「これでどうだ……!」


 鉱石を振り下ろすと、ストーンビーストの硬い外殻にぶつかり、驚くほどの勢いで亀裂が走った。スティールブルー鉱石は、他の鉱物よりも圧倒的に硬く、魔物の外殻を打ち破るのに十分な威力を発揮したのだ。


「やったぞ……これで決める!」


 ガルドは何度もスティールブルー鉱石を振り下ろし、ついにストーンビーストを倒すことに成功した。魔物は大きな音を立てて崩れ落ち、その場に静寂が戻った。


「……なんとか倒せたな」


 ガルドはスティールブルー鉱石を握りしめたまま、倒れたストーンビーストを見下ろした。デルカもようやく安堵の表情を浮かべ、ガルドのもとに駆け寄った。


「やるじゃねぇか、ガルド! その鉱石、まさにあんたにぴったりの武器だな!」


 ガルドはその言葉を聞いて、手に持ったスティールブルー鉱石を見つめた。その硬さと重量感、そして何よりもこの戦いで自分の命を救ってくれたことから、ガルドはこの鉱石を新たな武器として使うことを決意した。


「そうだな……これから、この鉱石を使って新しい武器を作ろう。今度はもっと強い剣を」


 ガルドはスティールブルー鉱石を手に入れ、ベルガルドの街に戻ると、街の鍛冶職人にその鉱石を渡し、新たな武器を作るよう依頼した。長年使ってきた愛用の剣が壊れたことに一抹の寂しさを感じつつも、ガルドは新しい武器への期待感に胸を膨らませていた。


「この剣で、これからもこの街を守り続ける……」


 ガルドは新たに手に入れたスティールブルー鉱石で作られる武器が、自分のこれからの冒険に欠かせない相棒になることを確信していた。

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