第12話:「氷の魔物との戦い、ガルドの決断」
雪竜の月も終わりに差し掛かり、ベルガルドの街は寒さの中で静かな年の終わりを迎えようとしていた。しかし、その平穏は突然、街を襲った異変によって破られた。
「氷の魔物が……現れた!」
ギルドの中に緊張が走った。街の外れにある湖の近くに、強力な氷の魔物、グレイシャル・ビーストが出現したという報せが舞い込んできた。街中が不安に包まれ、すぐにギルドへ緊急依頼が発令された。
「Bランク以上の冒険者は、即刻この依頼に参加せよ!」
ギルドの掲示板にはそう掲げられており、Bランク以上の冒険者たちがすぐに集まっていた。だが、ガルドはCランクの冒険者。義務はない。彼は掲示板を見つめながら、一度はその場を離れようとした。
「……俺には関係のない話だ……」
しかし、心の中では迷いが生じていた。氷の魔物が街に迫れば、ただの住民たちにまで被害が及ぶ。自分に参加の義務はないとはいえ、何かしなければという思いがガルドを突き動かしていた。
「ガルドさん……」
ギルドカウンターのエリシアが、心配そうにガルドに声をかけた。
「……エリシア、わかってるさ。街を守るためだ」
ガルドは深く息をつき、剣を手に取った。
街の外れに位置する湖の近く、そこにはすでにBランク以上の冒険者たちが集結していた。レイヴンもその中にいた。彼はすでに戦闘の準備を整え、険しい表情を浮かべている。
「よし、みんな! 今日は俺たちでこの魔物を倒すんだ!」
レイヴンは仲間たちに呼びかけ、戦意を鼓舞していた。彼の隣には弓使いのミリアも控えており、集中して周囲を見渡している。
「レイヴン、今度は負けないわよ。魔物がどれだけ強くても、私たちで仕留めるわ」
その時、ガルドが静かに現場に姿を見せた。
「……ガルド!? なんでお前がここにいるんだ?」
レイヴンは驚いた表情を浮かべた。ガルドはCランクの冒険者であり、参加する義務はない。だがガルドは冷静に答えた。
「俺に義務はないが、街を守るためには協力する必要がある。だから来ただけだ」
その言葉にレイヴンは一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。
「さすがだな、ガルド! 一緒にこの魔物を倒そう!」
冒険者たちが集結し、準備が整ったところで、湖の奥から冷気を纏った巨大な姿がゆっくりと現れた。グレイシャル・ビーストだ。全身が氷の鎧で覆われ、その瞳は青白く輝いている。巨大な体は2メートルを超え、重々しい足音が大地に響く。
「……でかいな……」
ガルドはその姿を見て、思わず息を呑んだ。通常の魔物とは一線を画すその威圧感に、周囲の空気が一瞬で凍りつく。冒険者たちもその場で立ちすくみそうになるが、レイヴンが一歩前に出て叫んだ。
「みんな、怯むな! あいつの鎧は氷でできている! ここに火属性の魔法使いがいるなら、そいつに任せるんだ!」
冒険者たちが一斉に動き出し、火の魔法使いが前に出てグレイシャル・ビーストに向かって火球を放った。しかし、魔物は驚くべき反応速度でそれをかわし、巨大な尾を振り回して氷の破片を放った。
「くっ……!」
氷の破片が次々に飛んできて、冒険者たちの盾に当たる。ガルドもすぐに剣を構え、近づく破片をはじいた。
「これは……予想以上に手強いな」
彼は冷静に状況を見定めながら、どのタイミングで攻撃を仕掛けるかを考えていた。
「ブレスが来るぞ、下がれ!」
誰かが叫んだ瞬間、グレイシャル・ビーストの口から冷気のブレスが放たれた。氷の息は大地を凍りつかせ、冒険者たちは一瞬で距離を取ったが、数名の冒険者がブレスに巻き込まれ、体の一部が凍りついてしまった。
「……凍結されたか! すぐに回復を!」
ミリアが素早く動き、凍りついた仲間たちに治療を施す。ガルドもその間にグレイシャル・ビーストの足元に駆け寄り、弱点を探ろうとしていた。
「……こいつは硬いな……普通の剣じゃ通用しないか」
ガルドはすぐに後退し、レイヴンのもとに合流した。
「火属性の攻撃でも、鎧が割れてもすぐに再生する。長期戦は不利だ」
「じゃあどうする? 何か策はあるのか?」
レイヴンが問いかけると、ガルドは冷静に答えた。
「奴の霜の領域が問題だ。氷の力を集めている場所を特定し、そこを攻撃する。おそらく、湖が奴の力の源だ」
ガルドの言葉にレイヴンは驚き、すぐに仲間に指示を出した。
「聞け! みんな、奴が力を集めているのは湖だ! 湖の氷を破壊するんだ!」
冒険者たちはガルドの提案を受け、湖に向かって一斉に攻撃を仕掛けた。火の魔法使いが湖の氷を溶かし、レイヴンが剣で氷を砕く。次第にグレイシャル・ビーストの動きが鈍くなってきた。
「今がチャンスだ!」
ガルドは剣を握りしめ、全力でグレイシャル・ビーストに突撃した。弱点が露わになったその瞬間、彼は鋭い一撃を放った。
「これで……終わりだ!」
ガルドの剣がグレイシャル・ビーストの核心部に突き刺さると、魔物は凍りついたまま崩れ落ち、その巨大な体が徐々に溶けていった。冒険者たちは息を呑みながら、その光景を見守った。
戦いが終わり、冒険者たちは次々に勝利を喜んでいた。レイヴンもガルドのもとに駆け寄り、感謝の言葉を述べた。
「さすがだ、ガルド! お前がいなかったらどうなっていたか……!」
ガルドは静かに微笑み、肩をすくめた。
「俺はただ、自分の役割を果たしただけだ。街を守るために、できることをしたまでさ」
その言葉にレイヴンは納得したように頷き、ミリアと共に街へと戻っていった。
ガルドは戦場を見渡しながら、静かに剣を収めた。街は無事守られた。そして、エリシアとの休日が迫っている。
「少し、休むか……」
ガルドはそう呟きながら、静かに雪の積もった道を歩き出した。
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