第11話:「ガルドの静かな休日とレイヴンの再登場」

 雪竜の月、ベルガルドの街は冬の冷たさに包まれ、街路を冷たい風が吹き抜けていた。霜が降り、街の住人たちは雪竜の祝祭に向けて忙しく準備をしている。年末に向けて、街は活気づいていたが、空気はどこか静けさを帯びている。


 ガルドもまた、ギルドで静かに依頼を探していた。エリシアとの休日が近づいており、ガルドはその準備を進めるため、報酬を稼ぎつつプレゼントを考えていた。


「何か簡単な依頼がいいな……」


 ガルドはギルド掲示板を眺めながら、雪竜の月ならではの護衛依頼や物資運搬の依頼を目にしていた。その中に、近隣の村へ物資を届ける簡単な護衛依頼があった。寒さが厳しいこの時期には、それでも魔物や盗賊の活動が活発化することもある。


「これなら、すぐに終わりそうだな」


 ガルドが依頼書を手に取り、カウンターに向かおうとした時、ギルドの扉が勢いよく開いた。


「おい、ガルド! 久しぶりだな!」


 その声にガルドが振り向くと、そこにはレイヴンが立っていた。Bランクの冒険者で、以前共にクエストをこなした相手だ。相変わらずの堂々とした様子で、満面の笑みを浮かべている。


「……レイヴンか。久しぶりだな」


 ガルドは、彼の変わらない態度に苦笑しながら、軽く挨拶を返した。


「聞いてくれよガルド! 実は、紹介したい奴がいるんだ!」


 レイヴンは、誇らしげに話を始めた。そして彼の背後から、ひとりの女性が現れた。彼女はスレンダーで鋭い目つきを持ち、弓を背負っている。冒険者としての経験が感じられる落ち着いた雰囲気を漂わせていた。


「ミリアだ。俺の仲間で、そして今じゃ俺の彼女だ!」


 レイヴンは自慢げにミリアを紹介した。ミリアは軽く頭を下げてから、ガルドを見つめた。


「話はレイヴンから聞いています。彼があの時、あなたに助けられたと聞きました」


 ガルドは少しだけ笑みを浮かべながら答えた。


「助けたというほどのことはしていない。レイヴンが自分で成長したんだ。今じゃ、Bランクの冒険者として立派にやっているようだな」


「そうそう、俺の実力も見てくれよ!」


 レイヴンは冗談半分でそう言ったが、ミリアは彼を冷静に見守っていた。


「俺たちも今度、依頼を受けるところだ。また一緒にやることがあれば、その時はよろしく頼むよ!」


 ガルドは頷きながらも、今回は自分のペースで依頼をこなそうと思い、軽く彼らを見送った。


 ギルドで依頼を済ませた後、ガルドはベルガルドの商店街へと足を運んだ。エリシアとの休日が近づいており、今年も何かプレゼントを用意しようと考えていた。


「毎年、似たようなものを贈ってばかりだし……もう少し特別なものがいいかもしれないな」


 ガルドは商店街を歩き回りながら、ふと小さなガラス細工の店が目に入った。店の奥には、透明で繊細なガラス細工が並んでおり、冬を感じさせる美しいオーナメントも置かれていた。


「これなら……いいかもしれない」


 ガルドは、雪の結晶を模した小さなオーナメントを手に取り、これがエリシアにふさわしいと感じた。繊細で透明感のあるこの作品は、エリシアの静かで優しい性格にも通じるものがあった。


「エリシアなら、これを喜んでくれるだろう」


 ガルドはガラス細工を購入し、エリシアへのプレゼントを一つ決めることができた。彼はギルドに戻り、次の依頼に備えることにした。



 翌日、ガルドは護衛依頼の準備を終え、商人とともに近隣の村へ物資を運ぶために出発した。雪竜の月の寒さは骨身に染みるが、この時期、物資の運搬は重要な仕事だ。村々では冬の支度が進んでおり、生活物資の到着が遅れれば大きな影響が出る。


「今回は特に大きな危険はなさそうだが、油断はできないな」


 ガルドは冷静に周囲を見渡しながら、商人を護衛して道を進んでいた。冬の間、魔物の活動は通常抑えられるが、時折現れる獣型の魔物や、野盗のような人間の脅威も存在する。


 案の定、森の奥から小さな影が動いたのが見えた。ガルドはすぐに剣に手をかけると、魔物「スノーフォックス」の群れが姿を現した。スノーフォックスは冬の季節に活発化する小型の魔物で、牙が鋭く、群れで行動するため侮れない相手だ。


「やっぱり出てきたか……」


 ガルドは剣を抜き、一撃でスノーフォックスを倒すためのタイミングを見計らった。次々と襲いかかってくるスノーフォックスたちを冷静に対処し、最後には群れを一掃した。


「大したことはない……これで一安心だな」


 ガルドは剣を鞘に収め、商人に振り返った。


「無事に村までたどり着けそうだ」


 商人は安堵の表情を浮かべ、ガルドに感謝を述べた。



 依頼を無事にこなし、報酬を手にしたガルドは、ようやくエリシアとの休日を迎える準備が整った。雪竜の月が進み、街は雪竜の祝祭に向けてさらに賑わいを見せている。ガルドは、静かな場所でエリシアと二人、穏やかな時間を過ごすことを心の中で楽しみにしていた。


「今年の休日は、少し特別なものにしてやりたいな……」


 ガルドは小さく呟きながら、エリシアとの時間を思い描き、次の準備を進めるのだった。

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