第6話:「レイヴンの成長とグリードの厄介ごと」
ベルガルドの冒険者ギルドは、普段通りの賑わいを見せていたが、今日は少し変わった顔があった。隣街から来た冒険者、レイヴン。彼は派手な鎧を身にまとい、Bランクの実力者として名を馳せているものの、その自信満々な態度と強引な振る舞いで有名だった。
「よぉ、ここがベルガルドのギルドか。さっそく仕事を紹介してもらおうじゃないか!」
レイヴンはギルドのカウンターに立つ美しいエルフの受付嬢、エリシアに話しかける。しかし、その態度はどこか馴れ馴れしく、少し乱暴な言葉遣いが目立つ。
「エリシアさん、君みたいな美人と一緒に食事でもどうだ? 仕事の後でさ」
エリシアは困惑しながらも、丁寧に断ろうとしたが、その瞬間、ギルド内に重たい雰囲気が漂った。ガルドが無言でカウンターに近づいてきたのだ。
「エリシアは忙しいんだ。無駄な時間を使わせるんじゃない」
低く落ち着いた声で、ガルドが言い放つと、レイヴンは驚いて振り返った。
「なんだよ、おっさん。邪魔するな。俺はただエリシアさんに話しかけてただけだ」
レイヴンはガルドのことを一目見て「万年Cランクの冒険者」としか思わず、挑発的な態度を取ったが、ガルドはまったく動じなかった。
「お前がBランクだろうが、ここじゃよそ者だ。エリシアを困らせるな」
レイヴンは一瞬黙ったが、引き下がる様子はなかった。その時、エリシアが割って入った。
「レイヴンさん、もしよろしければ、今度のクエストにガルドさんと同行してみませんか? 彼はこの街の魔物や環境に非常に詳しいですので、安全に進めるためにも……」
エリシアの提案に、レイヴンは渋々ながらも承諾した。彼はエリシアを気に入っていたが、それを無下にすることはできなかった。
「分かったよ。おっさんがどれくらい役に立つか、見せてもらおうじゃないか」
ガルドとレイヴンが向かうことになったのは、ベルガルド近郊に出没している魔物「シャドウビースト」の討伐依頼だった。シャドウビーストは群れで行動し、闇に紛れることで視認が難しく、光を嫌うが暗闇では異常な機動力を発揮する強敵だ。
「なんだ、たかがシャドウビーストだろ? 俺一人で十分じゃないか」
レイヴンは自信満々で森に入っていくが、ガルドはその様子を静かに観察していた。森に入ると、次第に暗くなり、風が冷たく感じ始めた。
「ビーストども、出てこいよ!」
レイヴンが声を上げたその瞬間、背後から黒い影が襲いかかった。シャドウビーストたちは群れで奇襲をかけ、レイヴンを一瞬で包囲した。
「なんだ、こいつら……!」
レイヴンは必死に剣を振り回すが、ビーストの機動力に圧倒され、防戦一方になる。彼の表情から自信が消え、焦りが滲んだ。
「おっさん、助けろ!」
その時、ガルドが冷静に動き出した。彼はシャドウビーストの動きを見極め、光を使って彼らの目を眩ませつつ、的確に攻撃を加えた。
「無駄に叫ぶな。シャドウビーストは気配を察知する。油断するな」
ガルドはレイヴンに冷静な指示を出し、彼を導いた。レイヴンはその指示に従い、徐々に体勢を立て直していく。次第にビーストの数は減り、最後にはガルドとレイヴンが協力して討伐に成功した。
「ふぅ……なんとか片付いたな」
レイヴンは息を整えながら言ったが、その顔には明らかにガルドへの感謝の色が滲んでいた。彼の自信は少し揺らいでいたが、今回の経験を通じて何かを学んだようだった。
「ガルドさん、さっきは助かった。あんた、ただのCランクじゃなさそうだな」
「仕事だ。気にするな」
ガルドは淡々と返答し、帰路につこうとしていた。しかし、その時、周囲の空気が再び重くなり始めた。シャドウビーストたちが現れた場所とは異なるエリアから、別の魔物の気配が漂ってきたのだ。
「……なんだ? まだ何かいるのか?」
レイヴンが警戒しながら辺りを見回すと、森の奥から新たな魔物の群れが現れた。今度はシャドウビーストよりもさらに凶暴なダークグリムと呼ばれる魔物だった。普段はこの地域には現れないはずの魔物が、なぜかここにいた。
「これは……異常だな」
ガルドは何かがおかしいことに気づいた。シャドウビーストだけが目標のクエストだったはずなのに、ダークグリムが現れること自体が異常だった。
街に戻ったガルドとレイヴンは、すぐにエリシアに異変を報告した。シャドウビースト討伐の最中に予期しない魔物が現れたことに、エリシアも不安を感じていた。
「ダークグリムは通常、この地域には現れないはずです……何かが引き寄せているのでしょうか?」
その時、ギルド内で何やら騒ぎが起きていた。ガルドが振り返ると、以前エリシアに絡んでいた厄介な冒険者、グリードがギルドの一角で他の冒険者たちと揉めているのが目に入った。
「おい、俺のせいじゃねえだろ! たまたま森でちょっとしたことをやっただけだ!」
グリードの言葉を聞いた瞬間、ガルドは鋭い視線を向けた。彼の言う「ちょっとしたこと」が何か大きな問題を引き起こしたことが直感的に分かった。
「グリード、何をやった?」
ガルドの低い声に、グリードは一瞬たじろいだが、すぐに開き直った。
「ちょっとした実験さ。魔物を引き寄せる薬を森に撒いて、どんな反応をするか見てただけだ」
その言葉を聞いたギルド内は一瞬で緊張に包まれた。エリシアもその事実を知って驚愕の表情を浮かべた。シャドウビーストやダークグリムの異常な出現は、グリードが行った無謀な実験が原因だったのだ。
ギルドの冒険者たちはすぐにグリードを取り囲み、ギルドマスターにも事態が伝えられた。グリードの無謀な行動は、街や冒険者に大きな危険を及ぼしたとして、ギルドから厳しく叱責されることとなった。
「お前は冒険者としての責任をまったく果たしていない。この事件の責任を取らせる。即刻降格だ」
グリードはその場で降格処分を受け、ギルド内でも肩身の狭い立場となった。
一方で、レイヴンは今回のクエストを通じて大きな成長を遂げていた。自分の過信を反省し、ガルドから多くのことを学んだ結果、彼のBランクとしての実力はさらに磨かれた。
「ガルドさん、本当にありがとうございました。あんたに学べたのは俺にとって大きな経験だった。次はもっと慎重にやるよ」
「お前も少しは成長したようだな。今後も気を抜くなよ」
レイヴンはガルドに感謝の言葉を伝え、彼の目には以前の傲慢さが薄れていた。
グリードが降格処分を受けた後、ギルド内は再び穏やかさを取り戻した。ガルドは静かにギルドを後にし、次の仕事に向けて準備を進めていた。
エリシアはそんなガルドの背中を見送りながら、彼に小さく声をかけた。
「ガルドさん、本当にありがとうございます。あなたのおかげで、レイヴンさんも成長できましたね」
ガルドは振り返ることなく、静かに答えた。
「俺はただ仕事をしただけだ。それに、お前が迷惑をかけられなくて済んだなら、それで十分だ」
こうして、また一つベルガルドの街に平穏が戻り、ガルドはいつも通り、黙々と仕事をこなし続ける日々に戻っていった。
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