第5話 忠誠
転移7日目に、昨日出た課題を解決することにした。
今ウルがいるのは、カリンシャから10㎞程の場所にある忘れ去られたであろう墓所であった。
いくつもの墓石は倒れて苔むし、長期間にわたって放置されている様子が見て取れた。
もちろん、周りには、少なくとも半径5㎞圏内には誰もいないことは確認済みで、盗み見対策もばっちりであった。
なぜそこまでするのか…。
それは、ウルが考えた簡単ですぐに実行できる解決方法が、『自身でその敵を召喚すること』であった。
もしもそんな場面を見られてしまったら、カリンシャでは、いやこの国では生きていけないことははっきりとしている。確実に牢屋行きである。
思いっきりマッチポンプとなるため、あまり気乗りはしなかったが、この世界ではフレンドリーファイア解禁…というかそれが当たり前であることを知ったので、この手が使えると考えたのだ。これも、ゲームではないことを裏付ける決定的な証拠でもあった。
ここで、サーバーダウン前に宝物の間から持ち込んだアイテムが活躍することになる。
その中にはもちろん、スクロールを含めた魔法発動のアイテムもあった。
ウルは特に品定めせずに選んだつもりであったが、自身の使えない魔法や効果のあるものをより多くインフィニティ・ハヴァサックに詰め込んでいたのだ。
その一つが、第十位階魔法『最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)』である。
これに関しては、何十回という回数を発動できるのである。
これには深い意味があるのだが…一言で言ってしまえば、『弟が沢山作っていた』のである。
趣味の悪い、悪魔像がその効力を宿しているのだが、ここで一つ疑念が生まれた。
「あれ?宝玉が3つしかないやつも持ってきていたはずなんだが…」
この悪魔像、完成品は6この宝玉を有したものである(弟曰く)。宝玉の数によって、最終戦争・悪の発動回数が決まる。
その完成品を作るまでに、何度も失敗をして、ようやく完成した者であった。
その話を聞いた時のことを思い出しながら、アイテムボックスを確認するが、やはりなかった。
「んー…持ってくるの忘れたのか?…まあ、完成品ではないからまあいいか…」
宝玉が2個と5個のものは複数ある。1-6までの像を綺麗にアイテム欄に並んでいないことに些少のむず痒さを感じながらも、宝玉が一つのみの悪魔像を取り出す。
「最終戦争・悪」
ウルの呟きと共に、目の前に多くの悪魔たちが出現する。
この魔法は、レベル10~70台の悪魔を召喚できるものであった。それに加えて…
「レベル60、70の悪魔、キャンセル」
60、70台の悪魔の召喚をキャンセルすることで、レベル10~30の悪魔を倍召喚できるのだ。
まずは戦闘時の動きの確認をするためにとこの魔法を利用することにしたのだ。
この魔法を選択した理由は3つある。
・大量に召喚できる代わりに、さほど強くないこと。
・勝手に暴れて操作を受け付けない。
・召喚された悪魔たちは召喚者、つまりはウルを攻撃できない。
というモノであった。
そのため、試し切りや動きの確認をするにはもってこいなのだ。
「よし…」
200体を超える悪魔たちが召喚しきったのを見て、ウルは小さく気合を入れながら、腰に差した日本の獲物を両手にそれぞれ握り、抜刀する。
と同時に、些少の違和感を感じる。悪魔たちが微動だにしないのだ。
そして、一瞬のうちにその違和感は驚愕へと変わった。
「お呼びでしょうか…。我らが主様…」
「…ぇ…?」
発した自分が聞き取れないほどの小さな声を漏らす。
ウルは一体何が起こっているのか理解できなかった。
呼び出した悪魔200体が、それぞれ形は違えど、自身に対して平伏しているのが分かったのだ。
多くは言葉を発することのできない悪魔であったが、身振りだけで分かってしまう程の平伏っぷりであった。
「…主様…どうぞ我らに…ご命令を…」
様々な疑問が生まれては頭を埋め尽くしていく。
…そして、ウルがとった行動はというと…
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!!」
ただ大声でビックリすることだけであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます