第11話

「え?」


頭が混乱して私は思わず聞き返した。


「もう暗いしこんなことの後で一人で帰らせる訳にもいかねえだろ」


先輩は濡れた前髪を整えながら気だるそうに言った。


「大丈夫です!これ以上何かして頂くわけにはいかないです」


私は慌ててそう断っても先輩は聞き入れず、結局私は先輩に家まで送ってもらうことになった。


何だかずっと夢を見ているようだった。


近くのコンビニで私と先輩は各々ビニール傘を買って歩き出した。

先程よりも小ぶりになった雨がパラパラと傘に落ち音を鳴らした。


そんな音がしっかり聞き取れるくらい、私と先輩は特に話すこともなく2人並んで歩いた。

先輩は元々沢山話すタイプではないだろう。私もどちらかと言うと聞き役が多くお喋りなタイプではない。

しかし何故だか会話の無いこの時間を“気まずい”とは思わなかった。


私は歩きながら先輩のことを見上げた。

先輩の横顔は息を呑むほどに綺麗で色気があった。

何か物想いにふけているような遠くを見ている目に思わず釘付けになってしまっていると、先輩は私に目を向け、


「なんだよ?」


と怪訝そうな顔をしたので私はハッとして顔を赤らめ、「いえ」と俯きながら答えた。

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