第14話『悪役令嬢となる少女』
さて、聖女ラナ様は俺の動画を見ながら怪しげな笑顔を浮かべていた訳だが、完全に俺を置き去りにして一人で楽しんでいる。
何で俺の前に座ったの? この人。
「あの。ラナ様?」
「あっ! これは申し訳ございません! タツヤさん。あまりにも尊い世界に心を奪われておりました」
「ソウデスカ」
何言ってるんだろう。この人。
正気じゃねぇのかな。
「実はですね。そんな尊敬するタツヤさんに、今日はとても素晴らしいお話を持ってきたのです」
「なるほど」
「はい。こちらの世界なのですが、どうでしょうか? 私と共に参りませんか?」
俺はテーブルの上に置かれた資料を手に取って、表紙を見る。
そして、紙を一枚ずつめくりながら中身を確かめていった。
なるほど。分からない所はいくつかあるが、概要は掴んだ。
「いくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか」
「はい」
「このエリスという子の備考欄に書かれている『悪役令嬢』というのは?」
「それは占い師によって予言された、未来にこの子が歩む道の名です。この子は何もしない場合、悪の道を歩んでしまうのです」
「そして、悪の道を歩むと、この聖女さんが役割をこなす事が出来なくなってしまい、世界が滅ぶと」
「はい」
「大分危険な世界ではないですか?」
「そうですね」
「私ではなく、もっと適任が居ると思うのですが」
「いいえ! タツヤさんが最も適しております! この子の心を大きく揺さぶる為には、タツヤさんでなくては!」
いやいやいや。大役過ぎんだろ。
冷静に考えて欲しいんだけど、一人の女の子が精神的に追い詰められた結果、世界を救う聖女の邪魔をするから、それを止めて欲しいという依頼で、何故、俺。
女の子の扱いならアーサーの方が絶対に上手いって!!
アーサーが無理でもさ。もっと居るじゃん。もっとさ。女の子との付き合いが上手い子!
ねぇ!?
「あの。恥ずかしながら俺は、女の子と付き合った経験も殆ど無いですし。もっと上手に話せる奴とかの方がいいのでは?」
「問題ありません」
聞く耳持たない聖女様だな!
だが、俺は負けんぞ!!
結局。その後俺は聖女ラナ様に抵抗したが、敗北し、共にこの世界へ行く事になった。
かくして、新たな世界へ行く事になった俺であったが、今回は何と子供の姿だ。
まぁ、まだ幼いエリスちゃんと仲良くなる為には同じ年くらいが良いからね。
年齢高すぎると、近づくだけで犯罪になってしまう。これは仕方のない事だ。
そして聖女ラナ様に何か切っ掛けが無いかと聞いたところ、ちょうどエリスちゃんの馬車が盗賊に襲われていると聞き、急いで異世界へと向かうのだった。
まぁ、トラブルが起きている以上は仕方ない。
ここでスパッと華麗に助け、エリスちゃんの信頼を獲得する予定だったのだが、馬車からエリスちゃんが何を思ったのか飛び出してきた為、それを庇って背中に盗賊のナイフを受けてしまった。
「このガキィ!」
「っ! この子に触れるな!!」
しかしそこは既に歴戦の戦士となりつつある俺である。サクっと敵を倒して、格好良く護衛として雇ってくれと言おうとしたんだが、エリスちゃんに無理矢理引っ張られて、馬車の中に叩き込まれてしまった。
そして、彼女の家まで運ばれてゆく。
それからメイドさんに風呂へ入れてもらい、俺はエリスちゃんの部屋に案内されるのだった。
「……あなた、だれ?」
「えと、俺はタツヤ」
「タツヤ?」
「そう」
「なんで、私を助けたの?」
「別に理由なんか無いさ。襲われてるのを見かけたから助けただけだ」
「……そう」
何だか落ち込んでいる様に見える。
なんだ。なんて言うのが、正解だ。
分からん!!
分からんが、この流れなら言えるか?
「あのさ」
「……なに?」
「実は俺、旅をしてるんだけどさ。その、仕事を探しててさ」
「……?」
「だー! もう! ごめん。上手く話せないや。あのさ。俺を雇ってくれないかな?」
「……あなたを?」
「そう。馬車に護衛も居なかったしさ。俺、腕には自信あるから、君を守れると思うんだよね」
「私を、まもる……でも信用できないわ」
「そりゃそうだ」
俺は子供らしさを前面に出しながら、笑う。
いやー。貴族相手に敬語を使わないとか、心臓がバクバク言ってるが、上手く耐えているぞ。
良い感じだ。
後は信用して貰えばこのまま雇って貰えそうだし。ここで必殺秘密兵器の登場でござい。
「これ。旅の途中で見つけたんだけどさ。ちょうど良いと思うんだよね。こっちのスイッチ持って」
俺はスイッチを持ってもらい。もう一方の首輪を空中に魔法で浮かし、影響が外に広がらない様に魔法で周囲を透明な膜で包む。
「そのスイッチ押してみて」
「……うん」
エリスちゃんは俺に言われた通り、スイッチを押し、直後膜の中で首輪がそれなりに大きな爆破を起こした。
そして、その爆発にエリスちゃんは目を見開いている様だった。
「どう? 凄いでしょ。これなら、俺が裏切っても、君がスイッチ一つを押すだけで大丈夫ってワケ」
俺はもう一個の首輪とスイッチを取り出し、首輪を自分の首に付け、スイッチをエリスちゃんに手渡した。
そして、笑う。
「どうかな?」
「や、やだ。こんなの持てない!」
「あぁ、言ってなかったけど、大丈夫。この爆発は外には向かわないからさ。安心してよ」
「そうじゃない! そういう事じゃない! だって、貴方、怖くないの?」
「まー。怖くないって言ったら嘘になるかな。でも、君に信用してもらいたいからさ」
「……どうしてそこまで」
悩み、迷い、戸惑っているエリスちゃんに俺は何と言えば良いか考える。
考えるが、正直良い言葉は思いつかなかったし。
ここに来るまでに考えていた言葉も忘れた。
だから、正直に本音を話してみる事にする。
短い間だが、エリスちゃんと直接話して心に浮かんだ言葉を。
「君の目がね。気になったんだ」
「目?」
「そう。目。最初に会った時も、今、こうして話をしていてもそうなんだけどさ。君の目が寂しいって訴えているみたいで、目を離したら何処かに消えてしまいそうで、気になったんだ。君をちゃんと見ていたいと思った」
「……」
「だから傍に居たいって思った。本当は色々目的があったんだけど……って、ヤベ。今のは忘れて下さい」
気分のままに話していたら失言をしてしまい。俺は両手で口を塞いだが、エリスちゃんは特に機嫌を悪くしたような様子はなく、ただ穏やかに小さく笑った。
「……うん。良いよ。貴方を、雇ってあげる」
「本当に?」
「うん。もし、私に何かしたいのなら、もうやってるだろうし。こんな怖い物を渡してきてまで、私に近づきたい『理由』があるんでしょう? 今の失言はワザとらしかったけど。そこまで頭が回るようには見えないし。本当に失言なのかな」
「……」
「多分私の命を奪いたいとか、そういう事じゃ無いんだろうけど。私には言えない理由なのね。そう考えると護衛っていうのも間違いじゃないのかな」
俺は背中を滝の様に流れる汗を感じながら、ジッと俺を見る黒くて冷たい黒曜石の様な瞳から逃れる事が出来ずに硬直してしまった。
全部……では無いだろうけど、バレテーラ。
やっぱり俺じゃ荷が重いってぇ! この仕事!
ムリムリカタツムリ!
「……っ」
「あら? なんで逃げるの? 私の護衛になりたいんでしょ? タツヤ。なら逃げちゃ駄目よ」
「申し訳、ございません」
「今の言葉。さっきまでの言葉と違って自然と出てきたわね。ならそっちが素なんだ。普段から敬語で生活してるって、どういう身分なのかしら」
たっ、タスケテー!!
俺は身動きの出来ぬまま、虚空に向かって助けを求めるのだった。
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