God Save the Friday Knights.

@Uta_T

第1話:第一話: God said, Let there be light: And there was light.

「はぁッ…!!はぁッ…!」

男が夜の街を逃げ回る。悲鳴をあげながら逃げ回る。

「クソッ!!!なんなんだよ!!!なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよッ!!!」

今日の天気は寒い上に雨だ。風邪をひいてしまいそうな、悲しい夜だ。

「ッ!!!行き止まり…!!!」

今夜は人が少ないな。何も、最近じゃ珍しいことじゃない。

「クソ!!!来るな!!!来るなァ!!!!」

先の大戦のせいで四十万は死んだ。だのに勝敗はなし。おかげで街を歩く人は前よりも減ってしまったのだ。

「それ以上近づくと…撃っちまうぞッ!!!」

今宵はきっと、寂しい夜になりそうだ。

「へぇ?やってみなよ。震えてるじゃないか。ちゃんと構えないと怪我するよ。」

暗闇から歩いてくる銀髪、右目に眼帯を付けているスーツの女に、男は怯えながら銃口を向ける。

「うるせぇッ!!!死ねッ!!!クソ女ァ!!!」

人気のないイギリスの街に銃声が走る。

「残念外れ。ほら、私はここだよ。早く、殺しなよ。」

「クソッ!!!クソッ!!!クソがァァアアアッ!!!!!」

ウェブリーが情けなく鳴いている。二発目も、三発目も、四発目も五発目も。避けずとも全て外れてしまった。

「あーあ残念。もっと落ち着かないと死んじゃうよ?」

足音がどんどんと近づいてくる。

「やめろ…嫌だ…死にたくない….」

子供のように、駄々を捏ねるように、いい年した男が哀れに泣いている。

「次、人を撃つ時はちゃんと落ち着いてから撃とうね。もっとも、次に人を撃つ時は来世だろうけど。じゃさようなら哀れな子よ。一瞬で死ねることを感謝しながら死になよ。」

今度の鉛玉はしっかりと脳味噌をぶちまけていったようだ。

「あぁ疲れた。なんでわざわざこんなやつのために寒い中追いかけごっこをしなきゃなんないのか。ん、結構人集まって来たな。さっさと撤収撤収。」


エリカ=ローンウルフ。ローンウルフ家の双子の姉として、バーミンガムで生まれ育つ。父母は離れて暮らしており、エリカは母、妹は父の元で育った。第一次世界大戦ではソンムの地で戦い、ヴィクトリア十字章を授与されている。彼女の強さは天性のそれだった。

ローンウルフ家は代々、表と裏の面をもつ家で、合法、非合法の仕事を行ってきた。大抵は実業や賭博の管理、違法な馬券業である。

エリカの仕事は主に殺し。邪魔になる人間は一切の躊躇いなく殺す。腕は十分すぎるほどに確かである。


1922年7月20日


「今戻った。」

「あ!お疲れ様です!エリカさん!!」

「おぅ。そっちもお疲れさん。」

この男はエリカの部下の一人、ウィリアム=サナダ。日本人とイギリス人のハーフで二年ほど前にエリカの組織に入っている。

「ところで。今回のターゲット、うちの組織の金盗もうとしてた奴だそうですね。」

「ん、それ本当?」

「はい、マザーから聞きました。2日前の夜、うちが経営する酒場に盗人が入りましたよね。捜査を進めていくと、事件の犯人が今回のターゲットだったらしいです。というか、そんな大事な話軽々としちゃっていいんですかね…。無用心すぎませんか?マザー。」

「あの人適当だからね。それにいつか全体に情報は行き渡る訳だし大丈夫でしょ。」

「そうですかね….。秘密とか握られて脅されたり….(ぶつぶつ)」

「….....」


一つ。疑問が生まれた。私たちの組織はここ一帯を裏で支配しているかなり大きな組織だ。私たちが動けば組織の一つや二つ簡単に滅ぼすことだってできるし、堅気の人間だって普通関わろうとはしない。だってのにうちの金盗んだりするか…?自殺行為だ。何か、引っかかっている。


突然扉が開く。戦争の経験があるためか、思わず銃口を向けるエリカ。

「エリkってちょ!?!??まっエリカさん!??!?落ち着いて!?!!俺です!ジョエルです!」

エリカは入ってきたのが部下の一人である事を確認すると、銃を下ろす。

「あぁ。ジョエルか。で、要件はなんだ?つまらなかったら殺す。」

(こえぇ...。逃げとこ...)

ウィリアムは物陰に隠れ、ジョエルが殺されないようそっと見守る。

「ひっ‼︎えぇと..その...。!  うちの酒場で暴漢が...!」

「...チッ」

(え...なんで舌打ちされたの...今...俺何もしてないよねぇ!なんで睨まれるんですかねぇ!)

「はぁ...行くぞウィリアム。馬鹿をしばきに行くぞ。」

「めんどくさ」(はーい)




「おいゴラァ!エリカのクソ野郎はどこだァ!」

酒を飲みすぎたのだろう。背が高くデカイ男が酒瓶片手に暴れ回っている。かなり若い。20歳ぐらいであろうか。

「お前の後ろだ。」

「!」

巨体が宙を舞い、ドシンと倒れる。

一瞬、酒場が大きく揺れる。

(あの巨体を足だけで...)

「なんだ。このクソ野郎に用があるのか?言ってみろ。30文字以内でな。」

「ッ‼︎テメェ!!」

1発の銃声が酒場に響く

「? あと28文字だ。さぁ、言えよ。」

「ッ...テメェ、俺のダチ殺しやがったろッ!」

「ダチ...あー。さっき殺したやつかな?そいつの名前は?」

「マイケル=ダヴィエスだ...!」

「ふむ。確かに私が殺した。だが原因はやつにある。因果応報というやつだよ。」

「んなわけねぇだろ!あいつはあんたらみてぇなヤベェ組織に手出せるほどの人間じゃねえ!」

「そう言われましても。こっちはあいつに組織の金盗まれて...」

先ほどの疑問が蘇る。

(待てよ。こいつの言ってることが正しいなら、さっきの疑問と重なる点がある。詳しく話を聞いてみようか。)

「お前、名前は?」

「...フランクだ...。」

「よしフランク。詳しく話を聞かせてくれ。」

エリカはウィリアムに、フランクを椅子に縛るよう指示する。



「よしフランク。まずだ、どっからマイケルが死んだという情報を手に入れた?」

椅子に縛られたフランクに対してエリカは問う。

「.....ある男が俺の家を訪れて一言、エリカ=ローンウルフがマイケルを殺したと言って、一緒に死体を見に行った.....。」

「その男について何か知っているか?」

「いや...知らない。俺に死体を見せた後いつの間にかいなくなっていた。」

「特徴は?」

「背が高くて痩せ型だった。ハンチングをかぶっていて...右手に傷を負っていた。

あと!左手にタトゥーが...クモのタトゥーが彫ってあった!」

「ふむ。で、お前とマイケルの関係は?」

「あいつと俺は幼馴染だ。一緒に盗みを働いて生計を立ててた...。でもそれはガキの頃だ!今は工場で働いてる!盗みもしてねぇしヤクも吸ってない!それにあいつには女房もガキもいた!そんなあいつが盗みだなんて…」

(ふむ...世間一般的にいえばマイケルは所謂“善良な市民“と呼ばれる人間だ。こいつの話を聞く限りはだが。)

右手を顎につけエリカは考え込む

「エリカさん、どうかしました?」

「...いや、大丈夫だ。フランク、帰っていいぞ。また用があればうちの人間を送る。」

「...分かった。でもお前らがマイケルを殺したことは許してない...いつか借りを返してもらうからな...!」

「はいはい。言ってなさいな。」



「ふぃー...全く。今日はほんと疲れる一日ですねぇエリカさん...。」

ため息をつくウィリアムを尻目に考え込むエリカ


(この時点で幾つかの可能性がある。

一つ目はマイケル1人が策略した可能性。

女房と喧嘩して家を追い出されるなりして、行く当てもなかったから私たちの金を盗んで行った。もし冷静であったならそんな考えしないが、薬物や酒に溺れていたらありえなくもない。もしこれが正しかったのならこの事件はこれで終わり。


二つ目はマイケルとフランク、二人の策略だった可能性。

フランクが計画を企てマイケルが実行。その後盗品を山分け。この可能性が正しければフランクが死体になる。だがフランクはマイケルの死を伝えにきた謎の男について知らないと言っていた。この可能性は低いかも。


三つ目はマイケルが無実という可能性。マイケルは私に殺される直前に、なんで俺がこんな目にとも言っていた。これが正しければ私たちが責任を取る必要がある。


四つ目は....考えたくもないが、大きな組織やマフィアが動いている可能性。うちはバーミンガム一帯を取り仕切っている。どっかの組織に恨みを買われていても不思議じゃない。謎の男もその組織の人間である可能性が高い。)


「おーい、エリカさーん?聞いてます?おーい?」

「聞いてない」

「泣きそう」

「それよりも、私はそろそろ寝る。疲れた。」

「了解です。俺はまだ事務作業が残っているのでしばらくしたら帰りますね。」

「分かった。戸締りはちゃんとして帰れよ。」

「かしこまりました!」

ウィリアムは笑顔でビシッと敬礼をする。



敬礼か。そんな大層なものをされるのなんていつぶりだろうか。

地獄の景色が蘇ってくる。

赤黒い、ドロっとした液体が、私の体をはっていく。爆散した仲間の臓物が、血が、手や足がそこら中に散らばって。つまずいて。泥と血に塗れて。吐いて、走って、刺して、撃って、殺して、殺して、殺して、殺して。気持ちが悪い。気持ちがいい。


「....。 はぁ...。疲れた。さっさと寝よう。」

思い出したくもない事を思い出し、エリカは気分を沈ませながら寝床についた。


1922年7月21日


朝。バーミンガムの朝は空気が澄んでいるとは言い難いが、昼や夜と比べるといくばく下は清々しいものだ。

エリカは朝食をとりながらウィリアムと強盗の件について話をする。

「うーん。確かに。ただのバカがやらかした強盗事件かと思ってましたが。」

朝食のトーストを片手にニコラスは答える。

「この件はどうもきな臭い。私たちだけじゃ危ないかも。」

エリカは新聞を読みながらコーヒーを嗜んでいる。こうして見てみれば優雅で美しい、花のような女性に見えてしまう。

「マザーに話しにいってローンウルフ全体で動いてもらえるよう指示してもらいましょうか。」

「そうしよう。」

朝食を食べ終えた後、エリカの母カミラの元へと足を運ぶエリカとウィリアムであった。





3度のノック。

「母さん、いる?」

「いるわよ〜。どうぞ入って〜」

エリカは扉を開く。風呂上がりだったのか、薄着の母と目が合ってしまう。早朝に見る母の薄着ほど後悔するものはない。

「なっ...母さん!ちゃんと服着てよ。」

いつになく慌てるエリカ。

「あら〜。ごめんね。最近朝風呂が気持ちよくって。」

エリカの母カミラは若い方ではあるが、やはりエリカにとってキツいものがある。

「エリカさんー?入らないんですか?」

「入るなよウィリアム。入ったら殺す。」

「えぇ...。」



「ごめんね〜ウィリアム。この子ったらウブなのよ〜。」

「母さん怒るよ。」

エリカの母、カミラ=ローンウルフ。紅と蒼の目を持つオッドアイ。優しい性格で、ローンウルフの頭とは到底思えない人間だ。けれど怒ったら怖い。

「いえいえマザー。エリカさんはそういうところが可愛いので。」

「ウィリアム殴るよ。」

エリカの拳はすでにみぞおちに入っている。哀れウィリアム。

「で、エリカ。今日はどうしたの?」

「ん。実は...」

エリカは窃盗事件、フランクとマイケルとの関係性について話す。


「ふ〜ん。なるほどね...。確かに、少し妙ね。わかったわ。組員のみんなに知らせておくわ。それとエリカ、今回の件は大きな組織が関わっている可能性があるのよね?それならあなたがこの事件の捜査の指示役をして頂戴。何かあったら全員殺して構わないわ。」

「了解です、お母さん。行くぞウィリアム。」

「ま...まって...まだ...腹が...」




「さて。まずは...フランクとマイケルについての調査、事件現場の再捜査、あとは裏で大きな組織が動いてないかの調査だな。

ウィリアム、お前はフランクとマイケルについて調査してくれ。私は他の組織が動いてないか調査する。フランクにマイケルの死を伝えた男についても私が調査しよう。再捜査はジョエル達にやらせる。」

指示役を任されたのが嬉しかったのか、エリカは乗り気にそう指示を出す。

「わかりました。ジョエルさん達には俺から伝えます。」

「ん、わかった。くれぐれも死人は出さないでくれよ。後片付けがめんどくさいんでな。」

「了解しました〜」



「さてと、他の組織について調査するとは言ったものの。まず何をしようかね。」

(私の専門は殺しだからなぁ...。何をすればいいのか...。)

懐からマッチとタバコを取り出し、火をつけ一服する。

「....カチコミ行くか。」

エリカは脳筋であった。




リー・メトフォードライフルを持ったエリカがある建物の前に立っている。

「ここで今日の“訪問”は最後かな。」

ライフルをコッキングし、エリカは建物に入っていく。



「撃てッ!!撃てッ!!!!!」

一人、また一人と倒れていく。

「ぐぅ...このアマァ!!!ぐふッ!?!」


なんてことだ。誰かエリカにライフルの正しい使い方を教えてやってくれ。

エリカはライフルをまるでバッドのように使っている。

敵の武器を撃ち、怯んだ間にライフルで敵を殴りつけ、気絶させている。

死体を出してはいけないとはいえ、あまりに脳筋すぎる。


「全く。雑魚ばっかり。ん、君がこのマフィアのボス?」

「...そうだ。お前は?」

歩み寄るエリカに、男は銃口を向けるも、エリカは男の銃を狙撃し、無力化する。

「ぐっ....」

「ローンウルフのエリカだ。名前ぐらいは知ってるだろ?」

「....チッ...そうか、お前がか。で、なんのようだ?俺を殺しに来たのか?」

「安心してよ。今日は殺しに来たわけじゃない。他の組員も気絶しているだけ。

いくつか質問があるから、答えてくれると嬉しいのだけど。」

エリカはライフルに弾を込めながらそう言う。

「.....なんだ。」

「質問は三つ。一つ目。お前たち、一般市民に金を盗むように指示したか?」

「していない。」

「二つ目。マイケル=デイヴィスという男に金を貸していたか?」

「貸していない。その男も知らない。」

「ふむ。じゃあ次、右手に怪我、左手にクモのタトゥー。ハンチング帽をかぶっていて背の高い、痩せ型の男は知っているか?」

「....見たことはある。」

「! ....どこで、いつ、どの組織に所属している?」

「街中だ。二ヶ月前になる。マフィアらしき男数人が街中を歩いていた。

その中にその特徴に当てはまる男がいた。どこに所属しているのかは...わからない。」

「具体的に。どこで?」

「ロンドン...。」

「ロンドンか。いい街だ。少し古臭いけど。

うん。ありがと。じゃ私はそろそろ」

「...無傷で帰られるとd」

エリカの拳が男の膝に入る。膝をついた男は呆気にとられ、そのままエリカの膝蹴りを喰らい気絶する。

ピクリとも動かない男を見て、ため息をつくエリカ。

「結局手がかりがあったのはクモタトゥー男だけか...疲れたぁ...帰ろ.....。」


「ただいまぁ...。」

「おかえり、エリカ。あら、疲れてるの?」

カミラは晩御飯を作りながらエリカを労る。

「はい...。別のマフィアグループの訪問で.....あ。」

「あなた、また別のマフィアを”訪問”したの?」

「いや、ええええと、その。必要不可欠だったといいますか....仕方なかったといいますか...。で、でも。ちゃんと殺してないし、お詫びの金を置いてきました!」

「.....はぁ。先方には私から謝っておくわ。今日はもう休みなさい。疲れたでしょう。」

呆れながらも、愛娘のことを心配に思うカミラ。

「はい....。ありがとうございます...。」



ーー酒場。

再捜査に出向いたのはジョエルとその他4人の男たち。。

それぞれエリカの部下であった。

皆、先の対戦で、エリカの部隊で戦い、生き残った、勇猛な兵士達であった。

「ジョエル、お前また女房さんと喧嘩したんだって?」

「あぁ酒を飲み過ぎだってな。」

「ははは、優しい人じゃねえか」

「どこがだよ。あいつ、小言が多いんだよ。おかげで耳にタコができちまった。」

「何言ってんだか。お前の耳はこの前の戦争で吹っ飛んだろうが」

「はは!確かにな!」

男達は他愛のない話をしながら捜査を進める。


「ジョエル、ちょっと来てくれ。」

「どうしたハリー?」

ハリーは地面に指を指しながら言う。

「こいつだ。血痕とガラス破片。」

「報告にあったやつだな。犯人はここから侵入したんだろう。血痕もガラスを破ったときに怪我でもしてついたものか。」

「ああ、だがここを見てくれ。足跡が四つ。非常に薄いが、確かにある。」

2人分の足跡はそれぞれ別方向に向いている。確実にそれぞれ別の人間のものであることがわかる。

「これは....まずいな、早くエリカさんに報告しに行こう」

「そうした方がいいな。もっと人員を増やして捜査を...ん?」

ふと、自分の足元小さく、何か書かれていることを確認する。

『SHALL WE DANCE?』

なんだこれ?誰かの落書きか?新しいものに見えるが...


ーーふと妙な静けさに違和感を感じ、チャールズはあたりを見回す。

「ん?ハリー?どこいった?」

突如、ハリーがいなくなり不安になるジョエル。

「ヘンリー!ロバート!チャールズ!どこだ!」

「みなさんはすでに眠っております」

背後から唐突に声がした。モーゼルc96をホルスターから抜き出し、背後を警戒するジョエル。

だが声の主は見当たらない。

物音がし、とっさ音のした方へ銃口をむける。

「誰だッ!!ぐっ...」

後ろから取り押さえられる。必死に抵抗をするが、意識が飛びそうになる。

コツ、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。








「あぁ...疲れた...。」

「ん。ウィリアム。おかえり。」

銃の手入れをしながら、エリカはウィリアムを迎える。

「調査はどうだった?ウィリアム。」

「フランクに怪しいところはありませんでした。ただ、マイケルが...。」

バツが悪そうにウィリアムは言う。

「? マイケルがどうした?」

「どうやら家族5人で暮らしていくのが厳しかったのか、どっかの裏組織から金を借りたらしく。」

「それを返すために窃盗に手を出した可能性があると。」

「はい...。」

「うーむ...一旦ジョエル達の話も聞いてみないとな。」

「待ちますかー...」


ーしばらくして...

「帰って来ませんね。」

「どうせまたどっかの酒場で女引っ掛けてんだろ。あいつら一応私の部隊いたんだし。何かあっても大丈夫でしょ。」

タバコを吸いながらエリカは宙を見つめていた。

「......そうです...ね。」

「それよりも集めた情報を整理するぞ。」

「はい。」


結局その日ジョエル達が帰ってくることはなかった。



どこか。私も意地を張っていたのかもしれない。

この事件の解決は、母さんから直々に任された。

だから、失敗するわけにはいかない。

ジョエル達なら大丈夫。ジョエル達を信じてると自分に言い聞かせて、

ほんの少しだけ、焦っていた。

大丈夫、きっと大丈夫だ。


1922年7月23日


次の日、エリカとウィリアムは件の酒場に来ていた。

「.......」

「...........」

沈黙。破ったのはエリカだった。

「..........これは。」

死体。見慣れたものだ。ソンムの戦場で何千と見た。もはやそれを見て何か感情を抱くこともなかった。

「うっ....ちょっと...失礼します....」

ウィリアムが外へ走っていく。

(無理もない。私でさえ大戦中はしばしば吐いていた。戦争を経験していないウィリアムにこの景色はあまりに酷すぎる。)

「すみません...戻りました....」

「大丈夫か?すまないな。外で待っていてもいいぞ。」

「いえ...大丈夫です。捜査を続けましょう。」

強い子だ。いつもは調子に乗ってるが、根はしっかりしてる。


二人は捜査を続ける。


「ひどい状態だ...。抵抗できないように椅子に縛って....」

「こいつは多分拷問もされてる。手を見てみろ。指が切り落とされて傷口が焼かれた痕がある。出血多量で死ぬのを防ぐためだろう。」

「こっちは膝と頭を打たれてます....。」

二人は引き続き酒場を調査する。



「....ジョエル。」

ジョエルは俗にいうお調子者だった。妻と一人の子供がいて、幸せなやつだった。殺しにも否定的で、マフィアの人間にしては優しすぎるやつだった。

(他の死体よりも傷が多い...)

「ジョエル...さん....。」

ウィリアムは言葉を失っている

「....ジョエルと仲が良かったのか?」

「はい。ジョエルさんのお嫁さん、料理の腕がすごくて。お金がないときはいつもお世話になっていました。」

「......そうか。」

(...すまないジョエル、みんな。私の考えが甘かった。)

「! エリカさん、置き手紙です。おそらく、こいつらが...。」

「Caro Lone Wolf. Incontriamoci e parliamo in questa taverna il 25 luglio. Da

Vulcanica.」

「イタリア語か...『親愛なるローンウルフへ、7月25日にこの酒場であって話そう。ヴァルヴァニカより。』って書いてる。」

「イタリア語、読めるんですか。」

「大戦中に色々あってな。それよりも。今はこのヴァルヴァニカだ。こいつの名前は知っている。」

「結構大きい組織なんですか?」

「有名だ。悪い意味でな。」

「私たちは薬物を使った商売をしない。母さんがそういうのを毛嫌いしているからね。でもヴァルヴァニカは違う。裏社会の人間だけじゃなく一般市民に対しても薬物を売り渡してる。...クズだよ。」

「...」

反吐が出る。先の大戦でたくさんの人間を殺した。その時から怒りの感情や悲しみの感情もなくっていた。だが...

「ウィリアム。お前は...どう思う?」

「...おそらく、エリカさんと同じ考えです。」

「そうか。なら、やることはひとつだな。」

「はい。」



1922年7月24日


今日は日曜日だ。

皆教会へ行き、ジョエル達の死を悼みつつ、祈る。


「全員集まったな。みんな知っていると思うが、うちの組員が殺された。合計5人だ。

ジョエル、チャールズ、ヘンリー、ハリー、ロバートだ。

殺したのはヴァルヴァニカ。イタリア系のマフィアだ。半年前からイギリスにきてうちと同じ様に酒場やカジノを経営して金を稼いでいる。だが、あいつらは私たちと一つだけ、違う点がある。あいつらは、一般市民にヤク売って金を稼いでいる。ヤク中を何人も生み出して、荒稼ぎしている。

ゴミは掃除しないとな。この街は私たちのものだ。どこに外から来た人間全員におもてなしする義務がある?この街に迎える人間は私たちが決める。歯向かうカスどもは全員殺すだけだ。銃を持て。斧を持て。武器がないなら拳を握れ!!!」

「ジョエルたちのために...仇を取ってやろう...!」

「ああ。弔い合戦だ!」



「みんな血気盛んですね。」

「こいつらこれが好きなのさ。みんなでお国のために、馬鹿みたいに笑って戦ってた頃と変わらない。」

そう言って馬鹿達を見るエリカさんは、どこか寂しそうに見えた。


「エリカ、ちょっとこっちいらっしゃい。」

「ん、お母さん。」

「エリカ、あなたには辛いことをさせたわ。ごめんなさいね。」

「いえ、お母さん。これは私の責任です。いずれ私は、ローンウルフのトップとしてこいつらをまとめなければならない。この経験は私にとって必要なことでした。」

「そう。ありがとうね。あと、ウィリアムにはちゃんと優しくしなさいね。あの子あなたに好意抱いてるから。」

「......善処します。」

「青春ね〜。」





1922年7月25日


小鳥が鳴いている。今日は生憎の雨だった。バーミンガムに重い空気が満遍なく広がっている。じめっとしている上に少し暑い。

「...最悪。」



ーー酒場。

「ヤァヤァ、ローンウルフの皆様!Buon giorno!」

「...こんにちは。私はエリカ=ローンウルフ。お前は?」

「ジョバンニ=ヴァルヴァニカ。どうぞよろしく、エリカさん。」

「気安く私の名前を呼ばないでくれるか?」

エリカはジョバンニを鋭く睨む。

「そんな顔しないでくださいな〜。先の大戦では同じ敵を殺した仲でしょう?」

「...お前らイタ公は三国同盟の連中を裏切っただろ。」

「マァマァ。今になっては昔のことというわけで。話というのはですね...」

「その前に。いくつか事実確認をさせてもらう。」

「ほう。構いませんよ。」


「一つ。マイケル=デヴィエスという男に金を貸したか?」

「はい。」


「二つ。うちの組員を5人、殺したか?」

「はい。」


「三つ。その5人に対して拷問を行ったか?」

「....はい。」


「四つ。右手に傷、左手にクモのタトゥー。背が高く痩せ型。ハンチング帽を被った男を知っているか?」

「.....それは.....いえません。」

「.....そうか。」



「.......事実確認は以上だ。」

「OK,では、私のお話をさせていただきます。」

ジョバンニは少しの間黙りこくる。しばらくした後、ジョバンニはまた喋り出す。

「....エリカさん、非常に自分勝手であり到底叶わない願いであることは重々承知しております。ですが私たちにも事情がある、といいうことをお知りの上で聞いてください。」


「私たちを、助けてはくださいませんか。」

「...は?」

「てめぇ!何言ってんだッ!!ジョエルやロバートを殺しやがったくせにッ!!」

「...落ち着けお前たち。ジョバンニ、こいつらの言っていることは確かだ。お前たちはうちの組員を殺した。正当防衛だった、なんていうなよ。お前たちはあいつらを拷問した上で殺したと、さっき認めているだろう。」

「分かっています。ですが、私達だって好んでああいう事をしたわけではありません。私達は脅されています。そして、都合の良いように利用されている。」

「脅されているって...誰に...。」

「あなたがよく知っている人物です。名前h」

瞬時、ジョバンニの頭を弾丸が貫く。その弾丸は、酒場に混沌を呼び起こした。

(狙撃!!)

「どこからだ!?」「おい!お前らのスナイパーじゃねえのか!?」「はぁ?ちげぇよ!!」

怒号が飛び交う。

「お前ら落ち着け!!!」

エリカがそう叫ぶも、混沌が静まる様子はない。

「エリカさん!!」

その声に反応して後ろを振り向くと、ウィリアムがこっちに何かを訴えかけている。

なんだ。なんと言っている?


「危ない!!」


「!!」



「ぐっ...」

エリカの頬に弾丸がかすめる。

ショルダーホルスターからコルトガバメントを抜き出し、私を殺そうとしたヴァルヴァニカの男を確実に殺す。


「殺れ!!」

途端、酒場に殺意が満ち溢れる。

あぁ。これは。この光景は。あの日みた地獄。あの日味わった地獄の味。転がる死体、流れる血、うめき声、祈る声。

あぁなんて

残酷で

哀れで

楽しい世界!

目の前の敵を殴り、怯んだところを狙い頭を撃つ。

(エリカさん笑いながら殺してる...こえぇ...。)

そのまま肉壁にして弾幕を回避しつつ、敵を一人、また一人と殺していく。

「チィ!!弾切れだ!!」

もう片方のショルダーホルダーからナイフを取り出し敵に投げつける。

「よい...しょっと!!」

敵の顔面に飛びつき、ナイフを取り肉壁にする。

(.....すっご.....)

「んっと。見惚れてる場合じゃないな。」

ウィリアムは敵の攻撃をかわし、そのまま投げ顔面を踏みつける。

(!! こいつの銃、ガバメントだ)

「エリカさん!」

「なんだ!今ちょっと忙しい!」

「マガジン!!」

「!  こっちに投げろ!」

エリカはナイフを口に挟み、ガバメントからマガジンを抜きウィリアムからニューマガジンを受け取り交換する。

「ほうほ!!(どーも!)」

ウィリアムはグッと親指を立てる。

「もういっちょ、頑張りますか!」


その日、酒場は”戦場”と化した。

 



全てが終わった後、残っていたのはローンウルフ。

「チッ...ジョバンニの野郎...勝手に殺されやがって。なんだよ助けてくれって。」

全てが終わったというのに、どこか心残りがあった。

これではジョエル達に手向けはできない。こんなの復讐にならない。

「クソッ!!」

ジョバンニの死体を蹴り上げようとする。



そういえば狙撃手はどうした

...! まだ狙われて...!

刹那、エリカに緊張が走る。が、深く深呼吸をし、落ち着かせる。

(いや、狙撃手がいるなら私はもう死んでいるだろう。すでに逃げた、か。)

「ウィリアム。ジョバンニが撃たれる前後で、狙撃銃をもった人間を見たか?」

「見てないですね...おそらく、外からの狙撃かと。」

「かもな。ジョバンニの頭を見てみろ。頭に一発。素人やただの軍人や警察官じゃない。相当自分の腕に自身のあるやつだ。」

「あ、エリカさん。見てください。」

「なんだ?」

「ここのガラス、銃弾で割れている跡が。」

「ふむ。ジョバンニの傷口の向きともあっているな。」

「銃声の大きさからして狙撃手はかなり近くにいた可能性がありますね。」

「ん。あの建物かな。」

「そうっぽいですね。向きも高さも距離もちょうどいい。」

「狙撃手の目的はジョバンニの排除、私達ローンウルフかヴァルヴァニカ、もしくは両方の組織の壊滅。」

「だがイレギュラーがいた。ローンウルフが強すぎて共倒れも漁夫の利も狙えなかった。だから逃げた。」

「その可能性もある。もう一つは。ジョバンニは助けてくれと願い出ていた。

ジョバンニは、あいつを脅し操っている組織の名前を、私達に伝える直前に狙撃された、つまり情報が漏れ出るのを阻止するために殺された。」

「さらに大きな組織が動いている可能性がある、と...。」

「ああ。でもどうやって私たちの会話を盗聴したんだ...?」

「.....スパイ...?」

「....なるほどな。私を撃ってきた奴がいただろ。おそらくあいつがスパイだな。裏で動く組織から派遣されたんだろう。」

「混沌に乗じて暗殺を図る...タチが悪いですね...」

「私を撃ったやつを調査してみよう。」



「ん、やっぱりあった。」

「これは...紙...」

『ジョバンニが裏切ったら狙撃手に合図を出せ。狙撃手がジョバンニを狙撃する。お前はその後、エリカを銃殺せよ。』

(なるほどね。つまりこういうことか。


1.ヴァルヴァニカがマイケルに金を貸す。

2.膨らんだ借金を抱えたマイケルに対して、脅しでもして窃盗を命じる。

3.バカがやらかした窃盗事件に見せかけ、私にマイケルを殺させる。

4.フランクにマイケルの死を伝えローンウルフの酒場で暴れさせる。

5.私に異変を匂わせる。マイケルの犯行の真相を追わさせ、ジョエルらに事件の再捜査をさせる。

6.裏で動く組織がヴァルヴァニカを操り、ジョエルら5人を拷問、殺害する。

7.ローンウルフとヴァルヴァニカを対立させる。

8.漁夫の利を狙い、ローンウルフ、ヴァルヴァニカの壊滅

9.利益がっぽり!支配地がっぽり!)


そういう計画だったのだろう。だが、ヴァルヴァニカが裏切り、結局私たちだけが生き残った。

私がフランクに恨みを買わせることで一般市民に私たちの汚名を広げることもできる。



こうなってくるとジョバンニもこの事件の被害者になってくる。

信じがたいが、現にこいつは殺されている。

再度、ジョバンニの方を見て、瞼が開いたままであることに気付く。

「かわいそうにな。お前にも家族がいたろうに。」

開いた瞼を手で下げ、閉眼させる。安らかな顔であった。

手に何かが握られている。

これは...手紙か。


「....ウィリアム。」

「? どうかしました?」

「全部わかったよ。この事件の真相、本当の真犯人を。なるほどたしかに。こんな芸当、あいつにしかできないことだった。」

「....誰なんですか?その真犯人ってのは。」

「エリーゼ=ローンウルフ。私の妹だ。」





ーー『あなたがこの手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないでしょう。ミス・エリカ=ローンウルフ、あなたが、この手紙を読んでくれることを祈っております。私はあなたの妹君、エリーゼ様の所属するフィンランディアというマフィアに脅され、操られている。とても信じてもらえないとは思います。ですが、これが真実です。証拠に、私は殺されいますからね。エリカさん、あなたの御友人を殺害した件については、本当に申し訳なく思っています。どうか許して欲しい。どうか。私たちヴァルヴァニカの仇を、とってほしい。あなたに神のご加護を。AMEN.』










あかりがつく。ろうそくがゆらゆらゆれている

いしきが...だんだんとはっきりしてくる。


「!!!ーーー」

声が出ない!いや、出せない!!

「ーーーー!ーーーー!!!!」(チャールズ!ハリー!!)

「こんばんは、ジョエルさん。」

「!!」

「背後から失敬。私はジョバンニ=ヴァルヴァニカ。ヴァルヴァニカグループのボスを務めさせていただいております。」

「あなた方の見つけた落書きと足跡は全て私が仕掛けたものです。上手いものでしょう。昔からこういうのが得意でしてね。」

「ーー!!ーーー!!!!」

「すみません。それを外すことはできません。」

「ですがご安心を。他の4人も生かしておりますので。」

「!」

周りを見渡すと、ハリー、ヘンリー、ロバート、チャールズがいた。

俺と同じように口にはタオルを詰められ、腕を縛られていた。

目の前の男は懐中時計を取り出して言う。

「今の時刻は午後7時。“彼女”が来るまで残り4時間。...少し、お話をしましょうか。



ーー私の名前は....すでにご存知でしたね。

ジョバンニ=ヴァルヴァニカ。

それが私の名前です。

ヴァルヴァニカ一族は貴族にも負けず劣らずの資金を蓄えておりました。

やっていることはあなた方ローンウルフ一族とそう大差はございません。

イギリスでも、イタリアでも、マフィアなんて変わらないものですね。

さて、皆様もおそらく参加したでしょう先の大戦で、

私は、二人の兄を失いました。


本来であれば長男、もしくは次男がヴァンヴァルニカのボスを勤めるはずでした。

私も、それに関して疑問や憤りを感じることはありませんでした。

私たち三兄弟は、イタリア戦線で戦っていました。他の戦線と同じく、塹壕戦でした。

ある日、私たちはいつも通りオーストリアと戦っておりました。

戦闘中、塹壕を出ていた次男が腹を撃たれ、それを長男と私が助けに行きました。私が牽制射撃をおこない、長男が塹壕から出て次男を担いで助ける形でした。

しかし次男を助ける途中、長男は足を撃たれ、次男もろとも倒れてしまいました。

私も兄達を助けようと、手を差し伸べようとしました。


しかし、ようやく手が届いたところで長男は頭を撃ち抜かれました。

なんとか次男だけは助けることができましたが、出血が多く、とても助かる状態ではありませんでした。

死を悟ったのか次男は、ヴァルヴァニカを頼むと私に伝え、息絶えました。

とても、後悔をしました。私の無力さが、何日も、何年も私自身を追い詰めていたのです。

もちろん全て私の責任でございます。

もし、何でも一つ願いが叶うのならば、彼らを助けたい。私の命を神に捧げてでも。

何度も教会へ行き、何度もそう神に願いました。


当然ですが、私の願いは叶いませんでした。もう2度と、あの二人と笑い合うことはできないのです。

愚かな男です。私は兄達を見殺しにした上に戦争から生きて帰ってしまった。

妻や娘達の哀れみの言葉や目が苦しかった。


戦争が終結した後、私たちはマフィアとしての活動を再開し、活動の幅をイギリスにも広げていきました。理由は単純です。兄達が、このイギリスの街を愛しており、いずれ移住したいと言っていたからです。美しい自然、貴賓とマナーに守られたこのイギリスを、彼らは本当に愛していました。

私はせめて、彼らの望んでいたことを叶えたかったのです。


イギリスでの活動を始めてすぐ、あるマフィアが話を持ちかけて来ました。マンチェスター一帯を支配していたフィンランディアです。

その話というのは

「フィンランディアがヴァルヴァニカを完全支配下に置くこと」です。

もちろん、拒否しました。兄達が守り抜いてきたこの家を易々と明け渡すわけには行けません。

ですが彼らは、武力で私達をいいなりにしました。

考えが甘かった。彼らは悪魔だ。彼らは男を殺さず、妻や子供達などを手にかけていきました。私の家族ももう...すでに。

私たちは降参し、フィンランディアの操り人形になっていました。

フィンランディアが手を汚したくない仕事、麻薬業などですね。そういう仕事をさせられていました。


あなた方には非常に申し訳なく思っております。私の弱さ故に、あなた方を殺さなくてはならない。

今回、私はフィンランディアより「ローンウルフのメンバーの拷問し、情報を引き出せ」と言われております。

 ですが安心してください。拷問はしません。安らかに逝けるようあなた方を銃で殺した後、拷問したように見せかけます。情報も偽りの物を渡します。

きっと私は、エリカさんから、強い恨みを買うことになるでしょう。しかしそれでいいのです。私は人に恨まれながら、死んでいくべきなのです。悪役として死ぬべきなのです。 

兄達を見殺しにしてしまった私の罪を償うべく。



以上です。何とも愚かな人生でしょう?」

「....俺たちだって死ぬのが好きなわけじゃない。なんらな、死にたくもないと思っている。けど俺たちはお前に負けた。生殺与奪の権はお前にある。勝手に殺してくれて構わない。俺たちも裁かれる人間、お前と同じような人間だ。だから、俺たちを殺すことに、後悔の念を抱く必要はない。謝罪は、また地獄で聞くさ。」


.....他の男達はそれぞれ俯いたり、宙を見つめたりしながらも、ジョエルのいうことに賛成する。


「...みなさん...。ありがとうございます。7月25日、我々ヴァルヴァニカとローンウルフで会合をする予定です。そこで私はフィンランディアを裏切ります。...ただでは死ねません。“彼女”に一矢報いてからの死にます。」

ローンウルフの男たちは笑う。

「はっ!そいつは最高だ!家族の敵を取ってやれ!そうだ、酒を持ってきてくれ。イタリアで一番の酒だ。それで許してやるよ。」

「酒ですか。ふむ...一つ、私のお気に入りがあります。きっとあなた方を満足させることもできる一品です。」

「ほう、そいつぁ楽しみだ。」

「えぇ。ぜひ楽しみにしておいてください。」

その後男達は語り合った。酒を飲み、女の話、金の話、愚痴などを、笑い合いながら語り合った。



「....そろそろ“彼女”が来てしまう。...あなた方を殺さなくてはならない。...本当に心苦しいです。」

「さっきも言ったろ。謝罪は地獄で聞く。殺すならさっさと殺してくれ。....泣いてしまいそうなんだ。」

「!  ...それはいけませんね。漢なら最後はかっこよく逝きたいことでしょう。」

「そうだ。あんた、俺たちを拷問するように見せかける必要があると言っていたな?」

「えぇ、情報を引き出せと言われておりますので」

「ふむ。じゃあ俺を一番傷を多くしてくれよ。エリカさんによく耐えたなって思われたい。」

「うわっずるい」

「へへっいいだろ。最後の頼みなんだ。」

「じゃあ俺は指を切ってくれ!戦争中に一本失ってな。どうせなら全部ない方がいい。」

「俺は右膝を撃ってくれ。どうも膝の調子が悪いんでな。」

男たちは次々へと要求を言っていく。

「....かしこまりました。ご助力に感謝いたします。」

ジョバンニはウェブリーに弾丸を込めていく。

「せっかくですので、最後に悪役らしく振る舞ってあなた方を殺しましょうか。」

「お、いいね!ぜひ見せてくれ!」

「それでは....コホン。」

ジョバンニは一つ咳をし、服を整える。


「Buona sera!! 私はジョバンニ=ヴァルヴァニカ。あなた方を殺しに来ました。

それではまた地獄で会いましょう!!Arrivederci!!!」


その夜、五発の銃声がイギリスの空へと舞い上がっていった。



「ごきげんよう、ジョバンニ。」

「...ごきげんよう、ミス・エリーゼ=ローンウルフ。」

「早速本題に入る。情報は引き出せたか?」

「えぇ、もちろんありますとも。ローンウルフで特に注意するべきなのはエリカ・ローンウルフのみ。それ以外は中の下。資産は......」



「満足頂けましたか?」

「ああ。十分だ。よくやったジョバンニ。報酬を...」

「結構です。こんな事をして得た報酬なぞ恥でしかありません。」

「...勝手にしろ。任務は終わりだ。次の任務は明日の会合。手筈通りに。」

「分かりました。」

「じゃあ帰るぞ。こんな場所にもう用はない。」

「っ、死体は?」

「放っておけ。そんなもの。むしろそっちの方があのバカな姉は腹を立てるだろう。」

「そんな...それはあまりに...!」

「ジョバンニ。」

「っ...!」

「放っておけ。いいな。」

「...かしこまり...ました...」

「それでいい。じゃあ帰るぞ。」

「...はい...。」





...エリカさん。どうか、彼女を止めてあげてください。

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