Alpha

@Uta_T

第1話:ハロー、異世界。

2024.2.28、23:48。

Alphaチーム5名、Bravoチーム5名、Sieraチーム4名。




『Sierra-1、Sierra-2、こちらHQ、聞こえるか。Over。』

『こちらSierra-1、感度、明度ともに良好。Over。』

『こちらSierra-2、ダニエルがまた吐きやがった。Over。』

『またかダニエル。ちゃんと観測はしろよ。』

『お前ら黙れ。任務中だ。こちらHQ、check only。Out。』


俺たちは任務中だった。テロ組織の潜む家屋の掃討、情報収集が今回の任務だ。


『Alphaチーム、こちらHQ、突入を開始しろ。Over』

『こちらAlpha、了解した。家屋-1に突入する。Out。』


「俺とイーサンとモーセは正面から、ルカ、ニコ、サミュエルは裏口から侵入しろ。」

「「「ラジャー。」」」


「ここだ。入るぞ。」

ニコが十字架をきり、部屋に突入する。

「Contact。」

家屋に銃声が鳴り響く。5秒もしないうちに静まりかえる。

「クリア。」

「こっちもクリアだ。イーサン、奥の部屋を確認しろ。」

「了解。」

俺はイーサンが奥の部屋へ向かっていくのを尻目に部屋の隅で銃を構えながら待機する。

「奥の部屋クリア。」

『HQ、こちらAlpha-1。敵とコンタクト、KIA。負傷者無し、他の敵に動きはない。Over.』

『Alpha-1、こちらHQ、了解した。任務を続行しろ。Out。』


俺たちは司令部に報告をし終わった後、大尉らと合流し任務を再開する。

『HQ、こちらAlpha-5。家屋-1クリア。家屋-2へ移動する。Over。』

『Alpha-5、こちらHQ。了解した。任務を続けろ。Out。』




そうして俺たちは家屋-2、家屋-3をクリア、ついに最後の家屋-4へと突入しようとしていた。


『Alpha-5、こちらBravo-2。聞こえるか。Over。』

『Bravo-2、こちらAlpha-5。Reading 3。かろうじて聞き取れている。続けろ。Over。』

『Alpha-5、こちらBravo-2。了解。家屋-4で動きがある。警戒しておけ。Out。』


最後の家屋に動きがあるというBravo-2からの報告。何か嫌な予感がした。だが最後の家屋ということもあり、俺たちは任務を続けることにした。

『HQ、こちらAlpha-5。Info from Bravo-2、家屋-4に動きがあった。警戒しながら掃討を続ける。Over。』

『Alpha-5、こちらHQ。了解した。通信状況も段々と悪くなっている。警戒を怠るな。Out。』

「聞いたな。ルカ、ニコ、窓から中を確認しろ。俺たちが突入した後、そのまま窓から侵入しろ。」

「WILCO、Captain。」

俺たちは窓を確認しに行く。

『Alpha-5、こちらAlpha-1。室内に敵を二人確認。俺たちで対処する。Over。』

『Alpha-1、こちらAlpha-5。了解した。Alpha-3とAlpha-5は、敵兵士のKIA後、突入する。Bravo-3とBravo-4は外で待機しろ。Out。』

「ニコ、こっちに来い。お前は右をやれ。俺は左をやる。」

「了解、俺の3カウントだ。」

銃を構え、深く息を吸い込む。

「3...2...1...」

ドヒュッ!!カランコロン...

空薬莢が二つ落ちる音がする。

『Alpha-5、こちらAlpha-1。敵をKIA。音で敵が警戒している可能性がある。慎重に突入しろ。俺たちはお前達の後ろから突入する。Over。』

『Alpha-1、こちらAlpha-5。Copy、突入を開始する。Bravoは外で待機しろ。Out。』

大尉達は家屋の左を、俺たちは右をクリアリングした。

「Contact。...Enemy down。」

部屋を出ようとしている時、ふと机の上に何かあるのを視認する。

(これは...本?アニメの絵...日本のものか?なぜここに...?)

「どうしたルカ? はやく大尉と合流するぞ。」

「...いや。なんでもない。行こう。」

俺は本をダンプポーチに入れ大尉達と合流する。


「来たな。最後の部屋は2階にある。俺が先頭を行く。イーサン、お前は一番後ろだ。」

「Roger。」

俺たちはゆっくりと階段を登る。


「あの部屋だ。一人だけ拘束する。人質がいる可能性もある。ルカ、フラッシュを投げr....」

部屋から大きな音がした。

「!!」

「気をつけろ。撃ってきたなら殺せ。だがあくまで一人は拘束することを念頭に置いておけ。」

「「「了解」」」

部屋からは未だ大きな音が響いている。

「...ルカ、俺の3カウントでフラッシュを投げ込め。」

「了解。」

ピンを抜き、大尉が扉を開くのを待つ。

「3...2...1...」

ピンッ!!ガラガラ...

「!!!  もう来たか!!!」

パァン!!!

「突入!!」

「ぐっ...だがもう遅い...すでに装置は起動し」

「Contact!!...Enemy down!!!」

「クリア!」

「クリア!」

「全員ナイトビジョンを切れ。明かりをつける。」

大尉の指示で皆はナイトビジョンを切る。

『HQ、こちらAlpha-5!家屋-4クリア。人質はいない。Over!』

『Alpha-5、こちらHQ。よくやった。ランディングゾーンに....ムを..た....に.....』

『HQ!?HQ!!!何があった!!Over!』

「クソッ、通信が途切れた!!」

「あー...大尉、お忙しいとこ申し訳ないんですけど...」

「なんだ!!」

「このデケェ機械...どうやって止めるか知ってたりは...」

イーサンが指を指した方には大きな機械があった。それは妖しい色に輝き激しく揺れている。

「これは...知らん。」

瞬時、妖しい光は辺りを包み込む。

「うおっ...!!」

「ぐぅ..なんだこれ...!!」

(なんだ...ノイズみたいのが...)


ーーSieraチーム

「なあ...なんか...変じゃね...?」

「...なんか...光ってんなぁ....」

「あー...司令部に報告する?」

「.....だめだ。無線が繋がらない。」

ダニエルは無線機を叩く

「チッ。このオンボロ。」

「なあ」

「あ?なんd...oh...」

光が徐々に大きくなる。なぜだろう。200メートルは離れているはずなのに...なぜかこっちまで届きそうな。

「...逃げた方が良くね....?」

「...いや...間に合わねぇ....」

「ふぅー....アーメン...」

ダニエルは十字架をきる。


...シエラチームを、妖しい光が包む。


ーーBravoチーム

「屋内が騒がしいな...何かあったのか?」

「突入するか?」

「....だめだ。無線が繋がらない。何かあったのかも知れない。突入しアッ...」


...Bravoを光が包む。




ーーー13:49、



小鳥が鳴いている。空が明るい...。

しまった!任務は!!


「....は?」

俺たちが目覚めるとそこは元いた場所ではなく、街。それも現代の街じゃない。まるで中世のような...。

「...!  大尉!起きてください!大尉!」

ルカは大尉に水をかける。

「うぉっ...なんだ!!」

ルカは理不尽にも殴られる。

「いっ....!!? た、大尉、俺です。!ルカです!」

「!? なんだお前か...な、なんだここは...?」

「いえ...わかりません。ですが元いた場所と違います!!」

唐突に無線が入る。


『Alpha!Bravo!こちらSiera-1、応答せよ!応答せよ!!Over!』

「!? 『Siera-1!こちらAlpha-5、こちらAlpha−5!Over!!』」

『ああよかった!!変な光に巻き込まれて...お前ら今どこだ!!Over!』

「ルカ!お前は他の隊員をおこせ!!『Siera-1!こちらAlpha-5!!俺たちは今街にいる!!そっちは今どこだ!!Over!』」

『街...あった!俺たちは街の外れです!!今そっちに向かいます!!!Over!』

『Negative!!こっちはちょっとした騒動だ!!俺たちがそっちに向かう!!方向は?!Over!』

『Wait and Wait!!!...太陽がある方向だ!!小さな丘にいる!Over!』

『了解した!!俺たちが向かっている間にSiera−2とコンタクトを取って合流しろ!俺たちはBravoを探す!!Out!!』

「大尉!全員起きました!!」

「了解!動くぞ!」




『Alpha-5!こちらSieraチーム!合流できた!!そっちはどうだ!!Over!』

『まだだ!!そっちから探せないか!?Over!』

『WILCO!!やってみる!!....いた!!!』

『どこだ!!』

『背の高い建物が見えるか!!!』

『....あった!!』

『そこにいる!!...おい、おいおいマジかよ!!』

『なんだ!!どうした!!』

『Bravoと市民が今にも殺し合いをしそうな雰囲気だ!!!数が多すぎる!狙撃するか!?』

『Negative!!敵はテロリストだ!!俺達が行って牽制する!!刃物や銃を持ち出したら撃て!!Over!』

『Copy that!!Out!』



「お前ら離れろ!!危害を加えるつもりはない!!!」

「クソッ!!人が多すぎる!!もう逃げ場がないぞ!!!」

Bravoが市民と互いに睨み合っている。その時、3発の銃声が街に鳴り響く。

「お前達やめろ!!」

大尉が空に銃を向けている。サプレッサーを外し空へ向かって撃ったようだ。民衆は一瞬静まり返り、一瞬にして人が悲鳴を上げ逃げていく。

「ありがとうございます大尉!!」

「謝辞は後だ!今は早くSieraと合流するぞ!!」

「Roger!!」

『Siera!こちらAlpha-5だ!Bravo合流した!!そっちに向かう間に司令部と連絡をとれ!!!Over!』

『Alpha-5!こちらSiera!Copy that!Out!』




「Siera!」

「Alpha!Bravo!よかった、大丈夫か!」

Alphaの隊員はそれぞれ膝をついたり木にもたれかかったりしている。

「ああ。司令部と連絡は?」

「...とれませんでした。」

「...そうか。」

部隊に沈黙が続く。


「....とにかく、今はここから離れましょう。ここは危険だ。森の中に...」

「だめだ。どうやらここは俺達がいた世界とは違う....森に何がいるかわからない。」

「元いた世界と違うって...何故確信できるんです?」

大尉の、その確信のある態度を疑問に思ったルカは問う。

「Bravoを助けに行く最中、少し街を観察した。」




「そこで数人、いわゆる魔法を使っている人間がいた。」




絶句する。いつも厳しいあの鬼隊長が唐突に馬鹿げたことを言い出したからだ。

「大尉...いくらなんでもそれは...」

「信じられないか?」

「....ええ。」

「ダニエル、双眼鏡を貸せ。」

ダニエルは急に話しかけられたことに驚いたのか、ビクッと体を震わせる。

「は、はい!」

ダニエルはポーチから双眼鏡を取り出し渡す。

「ふむ...あそこを見てみろ。」

大尉から双眼鏡を渡され、指を指している方向を見る。

「...マジかよ...」

「お、おい俺にも見せてくれ。」

「....What a.....」

そこには一見なんの変哲もない人間がどこからともなく魔法陣を生み出し、何もないところから水や火を出していた。

「あれが...魔法?」



その後隊員達は順番に双眼鏡を覗き、現実を知る。

(なんてこった...俺たち...違う世界に..なぜ?どうやって?)

「なぜ...違う世界なんかに...」

「光が俺たちを包んだだろう。おそらくあれが原因だな。」

「...これからどうするんですか...?」

「ひとまず街から離れる。お前ら立て、移動するぞ。」

落ち着いた様子で指示を出す大尉。こんな状況でもチームを迷いなく導いてくれている。

「...了解。」



大尉の指示で、俺たちは街から離れつつ、安全な場所を探した。

道中、架空の物語でしか見たこともないような動物や植物、そして...魔法。

俺たちは街から500メートルほど離れた場所にいた。その場所は少量の木々に囲まれたちょっとした広場。そこに拠点を構えることにした。


「全員いるか!点呼をとるぞ!」

ーーAlpha

大尉、ウェイド=クラーク。『大尉』

中尉、ルカ=マイヤーズ。『ルカ』

二等准尉、ニコ=ピーターソン。『ニコ』

一等軍曹、イーサン=カイ=エドワーズ。『イーサン』

一等軍曹、モーセ=アレックス=ベイカー『モーセ』


ーーBaravo

少尉、アレクサンダー=フィンリー=グレイ。『フィン』

四等准尉、ネイサン=マイヤーズ。『ドク』

一等准尉、ジョナサン=ルイ=サンダース。『ルイ』

曹長、ヴィンツェンツォ=ライリー=『ライリー』

二等軍曹、サミュエル=アイザック=フィリップス『サミュエル』


ーーSiera

少尉、エフゲニー=ソロコフ。『ソロコフ』

三等准尉、ダニエル=カーター。『ダニエル』

二等准尉、ジャスパー=セバスチャン=オルティース。『セバス』

二等軍曹、レネ=サロモン=トンプソン。『レネ』


「全員います!」

「よし、お前達聞け!!俺達は元いる世界と違う世界に来ている!まずは情報と安全だ!!俺とルカ、そしてソロコフとで街に情報収集に行く!それ以外は拠点を立てろ!いいな!」

「「「了解!!」」」


「ルカ、ソロコフ、装備は全て置いていけ。安全のためにナイフとハンドガンだけ持っていく。街中では出すなよ。殺しもなしだ。顔と服を隠せるものも持っていけ。」

「了解。そうだ、大尉。」

「?なんだ。」

「これを。」

ルカはダンプポーチから一冊の本を取り出す。

「家屋-4で見つけました。おそらくこの世界と関係があるかと。」

ウェイドは本を受け取り、表紙を見たり中身を見たりする。


「なんだこれは...小説...?異世界...この世界と似ているな。」

「もしかしたらこの世界に関する何かヒントがあるかも知れません。」

「わかった。ありがとう。街までの道のりで読んでみよう。」


そうして街に向かって俺たちはもう一度歩き始めた。

「どうやら異世界に来たらまずギルドに行く必要があるらしい。そこで様々な任務をこなすことで資金を得ることができる。」

「任務....ですか。」

「ああ、例えば人命救助、ターゲットの排除、資源調達などが主になる。」

「海兵隊の任務とあまり変わりませんね。」

「そうだな。そして、異世界の戦いは大抵が剣と魔法だけらしい。」

「街並みも中世っぽかったでしたね。この世界も剣と魔法だけかも。」

「剣と魔法か...。」

「どうしたソロコフ?」

ソロコフは何か考え込むように手を顎につけている。

「あぁ、いえ。その本によれば、異世界の戦いは剣と魔法が主流なんですよね?なら、銃の弾丸や修理部品などの補給が難しくなりませんか?」

大尉と俺はハッとする

「確かにな...それに文明レベルが中世ならナイトビジョンや無線機に使う電気も支給が難しくなる。」

「異世界での我々の装備の使用は控えて方が良さそうですね....。」

「ああ、この世界で使う武器や物資の調達についても考える必要が出てきたな。」

俺たちは拾った本を読みながら街へと歩いていった。





ーー街

「着いたな。」

幸いにも門番などはいなく、自由に出入りすることができた。

街並みや建物は中世ヨーロッパのものと似ている。街の人間は皆貧しくもなくとても裕福、というわけではなく、可もなく不可もなくといった服装、生活だった。


ギルドに向かう途中、いくつかの店に入った。

最初は武器屋。この世界の武器について知りたかったからである。この世界の武器は剣や弓、その他斧や槍などが主流だった。武器だけでなく鎧や盾などの防護装備も売ってあった。

次に魔法屋。この店では主にポーションと言われる薬や魔法に関する本、魔法を使う杖などがあった。街中で魔法を使っていた連中は杖を使っていなかったから、おそらくより大きな魔法を使う際に使うものなのだろう。



そして大きな収穫。この世界の言語は英語。というのも言語の問題が一番心配だったからひとまず安心した。だが違う世界なのに言語が全く同じ、というのは少し奇妙だった。いずれこの言語の起源を探ってみる必要がありそうだ。



ーーギルド

「ここがギルドか。」

「中は市役所の構造と似ている...。」

「受付に...酒場、大量の本もある。飲んだくれているのはギルドの依頼をこなしている人間だろう。」

「傭兵みたいなものですかね?」

「そうだな。金をもらって依頼をこなすところは似ている。恐らく傭兵と同じ定義にしても構わないだろう。」

「任務は受付で受けれるらしいです。」

「ふむ。一度受付に話を聞きに行こう。」


「Hi、お嬢さん。依頼はここで受けれるのかな?」

(おいソロコフ聞いたかよ....大尉がお嬢さんって....)

(ああ、あの人今年で48だろ....キツイな。)

(娘さんもいないから慣れていないんだろう。)

(かわいそうだな。)

ウェイドはわざとらしく咳払いをする。


「すまないなお嬢さん。で、ここで依頼を受けれるのかな?」

「はい、ギルドメンバーのカードを作成した後、すぐに受領することができます。」

「メンバーカードか...そいつの作り方は?」

「あちらの機械を使うことで作ることができます。料金は必要ないので今すぐにでも作れますよ!」

「なるほど。ありがとう。少し考えてみるよ。」


「さて、お前らは後で8km走らせるとして。」

「聞こえてたのか....」

「鬼だ....」

「依頼を受けるにはメンバーカードを作る必要があるらしい。」

「メンバーカードですか。本名がバレるのは防ぎたいですね...。」

「ああ。偽名で登録した方がいいかもな。とりあえず作ってみよう。料金はいらないらしい。」


俺たちはカードを作ることができるという機械の前に来ていた。その機械は俺たちが知っている機械とは程遠く、原始的であり、とても複雑そうなものだった。

「お嬢さん!ちょっと来てくれ!こいつの使い方がわからんくてな!」

「かしこまりました〜。」


「まずこちらに名前を記入してください。」

ウェイドはカードに名前を記入する。

「次にこちらの板に手を置いてください。」

「こうか?」

「はい、それで大丈夫です。」

石板が光り始め、俺たちは警戒する。

30秒ほど経っただろうか。光が消え始め、機械が動き始める。

ゴンッ!と大きな音を立てて機械が止まる。

(今の一瞬で何かしたのか....?これも魔法か...)

「これで完成です!お疲れ様でした。」

「あ、あぁ....。(現実味がないというか...あまりに非現実的な現象だ。)」


その後俺たちもカードを作り、一旦帰路についた。


ーー道中

「わかったことをまとめよう。ここら一帯の言語は英語。その他の地域についてはまた調べる必要がある。そしてこの世界の文明レベルは中世ヨーロッパに近しい。だが銃は開発されていない。」

「とりあえず今はこれぐらいですかね...。」

「ああ。早く帰って残った連中に報告をしよう。そうだ。お前達を走らせるんだった。そうだな...まあ今日は片道全力ランニングだけで許してやる。」

「やったぜ。」



ーーーーーー



「帰ったぞ。」

「街の様子はどうでしたか?」

残った連中が作った拠点は木で簡単なテントのようなものだった。雨風をなんとか凌げそうな屋根、そして監視用の簡単な櫓ができていた。

「あぁ、今から説明する。全員集合しろ.....



「ギルドに魔法...ねぇ....。本当に元いた世界とは違うのか。」

フィンはタバコを吸いながら答える。

「資源の補給も難しい...空薬莢も確実に回収した方がいいな。」

ドクはルイの傷を手当てしながら会話に参加する。どうやら拠点建設の時に軽い怪我を負ったらしい。

「今俺たちに必要なのは資金と物資だ。このため、早速明日からギルドにて任務をこなすことにする。それでいいな?」

隊員は全員頷く。

「よし。明日任務について来たい奴は?」

俺は手を上げ

「この世界では銃の使用を控えた方がいいんですよね?ならナイフや近接格闘が得意な俺が行くべきです。」

「それなら、俺も行った方が良さそうだな。」

イーサン、続いてモーセ、サミュエルが手を上げる。

「4人か、十分だ。他の人間は辺りを監視しつつ各自トレーニングだ。山菜採取や動物の生態観察も頼んだ。くれぐれも危険なことには首を突っ込まないように。ブリーフィングは以上だ。解散、自由時間に入れ。」


夜、俺はヤグラに登り、異世界の景色を堪能しながら一服していた。

「寝ないのか?」

聞こえたのは大尉の声。後ろを振り向くとMREを片手にした大尉がいた。

「あ、すみません...寝られなくて...。」

「それもそうだ。なんせ、異世界に来てるんだからな。」

大尉は俺の横に立ち夜空を眺めている。

「綺麗な夜空だ。空だけ見れば地球と何も変わらない。」

吐いた煙が空に消えていく。

「...いつか、帰れるんですかね。」

「さあな。だがやることは変わらない。進み続けるだけだ。進まない限りは、帰ることもできないからな。」

「....進み...続ける...。」

「そうだ。生き残るため、死ぬためにだ。」

ウェイドはポケットからタバコを取り出し火を付け、一服。二つの煙が空に向かって登っている。

「俺の死に場所は戦場だ。だからその戦場に向かって進み続けている。お前の死に場所はどこだ?」

(...死に場所、か。俺には愛人も、仲の良い友達もいない。今の今まで死ぬことなんて考えずに生きてきたからな...。死ぬなら...どこがいいだろうか。病院のベッド?家のソファ?仲間の横?...わからない。俺は...どこで死ねば...どこまで進めばいい...?)

「...わかりません。俺には死に場所がどこかだなんて...」

「ならひたすら生きてみればいい。生きていれば出会いがある。その出会いがお前に死に場所と生きる理由を与える。それに、ここは異世界だ。地球とは違う出会いを与えてくれるだろう。」

「ひたすら生きる...なるほど。確かに。大尉らしいですね。」

「らしいってなんだよ、らしいって。」

櫓の上に、男が二人。二人はその夜、戦場の思い出や上官の愚痴を語り合い、その後寝床に就く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Alpha @Uta_T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画