第35話

碧くんが自傷行為をしたのが、私がこの家にずっといることを否定したからだって分かってるけど……。


でも、碧くんはきっと私が了承しないとまた自分を平気で切ってしまうだろう。


「蘭が居てくれるならしない」


「……本当に?」


「うん。蘭が勝手にこの家から出ないならね?」



碧くんの顔を見て、包帯を巻いている手を止める。

私がここにずっと居たら、碧くんは安心するんだろう。

本当は嫌なんだけどな……。


でも、私が了承しない限り碧くんはまた……何度もこのことを繰り返すぐらいなら私がまた我慢すればいい。


ぐっと唇を強く噛み締める。じゃないと色んな感情が込み上げて泣いてしまいそうだった。


碧くんを生かす為に。


私が我慢する。ずっと言い聞かせてきたこと。何を今更……。

あの時から決めたことだ。


どうせ私は碧くんから逃げられないのだから。ここに閉じ込められたって、ただ我慢要素が増えるだけで何も変わらない。


息を吐いて、碧くんの途中になっていた包帯を巻き終えて頷いた。



「……分かったよ碧くん。でも、ここにずっと居るのは大学卒業してからにして?」


「大学? 今すぐじゃ駄目なの?」


「碧くんのお父さんがせっかく大学費出してくれてるのに、無駄にさせるわけにはいかないでしょ?」



碧くんは不満そうに顔を顰めている。

こればかりは幾ら碧くんが駄々こねようと、譲れない。


せめて大学卒業までは待ってて欲しい。



「蘭……」


「碧くん。約束しよう」


すっと小指を差し出すと、碧くんは暫し無言だったけどゆっくりと頷いて小指を絡めた。



「私がここにずっといる代わりに碧くんは自分のこと傷つけないで」


「分かった。大学卒業したらここから出さないから。蘭もここから逃げようとしないでね」


「うん」


絡めた小指に力を入れられ、少しだけ痛みに眉根を寄せてしまう。



私がここに閉じ込められるまで約3年後。


心臓がズンと重く痛んだような気持ちになってしまうけど、必死に気のせいだと言い聞かせる他なかった。

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