第34話

「……蘭、泣きそうな顔をしてる」


「っ。だって痛いでしょ!?」


まるで他人事のように言っている碧くんに込み上げてくるのは怒りで。

痛くないはずないのに、私の顔を見てなんでそんな微笑んでいるの。


血を抑えようと慌ててタオルを持ってきて、握るけどタオルがジワジワと赤く染まっていく。


今回は結構深く切ってしまったみたいで、中々血が止まりそうになくて焦る。


「嬉しいなぁ。蘭の頭の中は俺だけなんだよね?」


「っ、いつも碧くんのことばかりだよ……」


「うん。蘭は俺だけ考えてて?」


「……碧くん」


そっと切っていない方の左手を伸ばし、私の頬に触れて嬉しそうに笑う碧くんに思わず唇を噛み締める。


全く自分の痛みには関心がないとばかりの碧くんに泣きたくなる。


暫くするとようやく血が止まったようでほっとした。


傷を見たくないけど、そっとタオルを退かすと血が滲んではいるけど止まっている。



「……消毒しよう」


近くに置いていた救急箱から消毒液を出す。

碧くんの気まぐれによって直ぐに自分を痛めつけようとするので、救急箱は必ず近くに置いている。


こんなに傷があって消毒液がしみるだろうに少しだけ眉を寄せただけで、碧くんは平然としている。



「私がこの家にいれば…碧くんは自傷行為を止めてくれるの?」


丁寧に大きめの傷パットを貼り、その上から包帯を巻きながら問う。

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