第33話

だから碧くんの言う通りになんてできない。


碧くんの事を大切に思ってる、それは変わらない事実だというのに。

何がダメなのだというのだろう。



「碧くん、私のお話を聞いて? 私は碧くんとずっと一緒に居たい。だからこそきちんと生活していきたいの」


碧くんから目を逸らさず本心が伝わるようにじっと見つめると、碧くんは暫し無言になってしまった。


碧くんの返答が早く聞きたいような聞きたくないような、そんな緊張感に唾を飲むと碧くんは小さく口許を緩めた。


少しだけ笑みを浮かべた碧くんにちゃんと伝わって納得してくれたんだと安堵した瞬間。



「酷いなぁ蘭」


「え……?」


「俺を傷付けさせたいんだ」


「……どういう、」


意味なのかと続くはずだった言葉を失った。

目の前で碧くんは自分の手首をいつの間にか隠し持っていたカッターで切りつけたから。



「……っ」


碧くんが小さく呻く。

赤い血が垂れ、鉄の臭いが鼻を掠め青ざめた。



「碧くんっ!!」


碧くんの手から慌ててカッターを奪い、刃をしまうと碧くんから届かないように後ろへ投げる。


カッターが床に落ちた音がしたけどそんなの気にしているところじゃない。

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