第32話

あぁ、きっと冗談を言ったんだよね。

それか私の聞き間違いだったんだろう。


「碧くん、冗談はーー」


「冗談なんかじゃないよ。本気で言ってんだけど?」


「…………、」



ガラリとさっきまでの柔らかい笑みから冷たい表情へと変わった碧くんに息を飲む。

緊迫感に、身体が震えた。



「俺を安心させる為なら出来るよね。だって蘭は俺の事大切に思ってるんだから」



青ざめる私の頬に指を滑らせ、そっと親指で唇をなぞってくる。


心臓が早く脈打ち、痛く感じるくらいだ。



「あ、碧くん……私は、碧くんの事とても大事だよ?」


「……」


「で、でもね? だからといって、ここにずっと居るわけには、」


いかないでしょう?と続けるハズだった言葉を飲み込んだのは碧くんの瞳が怖かったから。



「蘭はやっぱり俺の事なんてどうでもいいんだ?」


「え、ち、違うよ!」


「なら、なんでそんな口答えするの?」



口答えって……。

碧くんが幾ら大切に思っているとはいえ、ここにずっと居て欲しいと言われてそう簡単に了承出来る事じゃない。


生活をしていかなきゃいけないのに。


現実問題、閉じこもってたってお金がかかる。そのお金はどうやって工面するつもりなのか。


それに、私はここにずっと閉じこもっていたくない。

ちゃんと大学に行きたいし、就職先を見つけて働きたい。

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