第21話

どうしたら碧くんは安心してくれるのだろう。

碧くんと出会ってからずっとずっと考えてる。未だに碧くんを安心させられる術が分からない。



「碧くん……」


どうして…………碧くんの彼女になったのに、未だに自傷行為を続けるの…………。



「蘭。何考えてるの」


「っ!?」



低い声にビクッとしてしまう。

碧くんが私の顔を覗き込み、視線を逸らすことを許さないとばかりに強い圧で見つめてくる。


「あ、碧くんのことに決まってる、よ……」


常に碧くんについて考えてるのに。

そんな怖い瞳で見つめてこないで。



「絶対に俺以外のこと考えないでね……じゃないと、ね?」


「!!」



目の前に突き出されたものに血の気が引く。

ズボンのポッケットに折りたたみナイフを忍ばせていたことに気づかなかった。


身体を強ばらせていると碧くんは自分の手首に刃先を当てた。



「や、止めてっ!!」


動かなきゃ。そう思った時には碧くんからナイフを取り上げることが出来た。

だけど、掴んだ位置がまずかった。


「っ、」


「蘭っ!?」


手のひらを切り、痛みが走る。思ったよりも切れ具合が良く、血が垂れた。

ジンジンとする痛みに眉を寄せ、歯を食いしばる。



「碧くん、駄目だよ……」


「あぁ……蘭の血が……血が……」



碧くんが青ざめ動揺している。

慌てて私の手のひらを握りしめるけど、碧くんにまで私の血が付いてしまった。



「大丈夫だよ……直ぐに止まる」


少し切ったぐらいだから。そんなに深くは無い、と思う。

碧くんを宥めるようにそう言うと、碧くんはピタッと動きを止めた。

不穏な様子の碧くんに思わず訝しむと。



「碧くんっ!?」


「ん……蘭の血は俺と違って凄く綺麗なんだね……はは、甘い……」



手を持ち上げ切れた箇所を舐めた碧くんにギョッとした。

そして血を啜り出す碧くんにゾッとする。



「蘭、なんで今まで気づかなかったんだろう……。」


「あ、碧くん……?」


「こんなに蘭の血が綺麗で美味しいだなんて」



唇を私の血で汚し、緩かに笑みを浮かべる碧くんからは狂気を感じた。

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