第19話

「痛っ!」


思いっきり噛まれたからか、鋭い痛みと血の匂いで血が出たことを察する。

酷い……。

口端って結構痛いのに。


非難の目を向けると碧くんは何故か恍惚とした笑みを浮かべ、私の口端を舐めた。

ピリピリとした痛みに眉根を寄せる。



「碧くん、なんで噛むの……」


「蘭が俺と離れる所に行こうって言うから」


「……大学に行ってもずっと一緒でしょう?」


「嫌だよ。俺はずっと蘭と2人きりがいい」



そんなの現実的に不可能だ。

私と碧くんだけで生活なんてしていけるわけがない。

大学に行っても全て同じ講義で、ずっと碧くんにまとわりつかれているのに何が不満なのだろう。



「蘭は俺と2人きりが嫌だって言うの?」


「……嫌じゃないよ」



一瞬、黙ってしまったけど渋った感じて言うと。碧くんは暫くじっと私を見つめてきた。

何を考えているのか分からない碧くんに緊張感が走る。



「蘭は俺のことちゃんと好き?」


これまた何故そんな事聞いてくるんだろうか。

ここで好きじゃない、だなんて言ったら大変なことになるだろうに。


「好きだよ。碧くんだけが好き」


「俺も蘭のこと愛してる。ずっとずっと永遠に蘭だけを愛してる」


「……、」


碧くんは嬉しそうに笑うと、首筋へとまた噛み付いたのだった。


だから痛いよ……。

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