第16話

碧くんのお母さんの言葉に思わず、身体を強ばらせる。

出た……。

毎回会う度に言われるから、だから会いたくないのもあるんだよね……。


曖昧に笑うと碧くんからギュッと手を握り締められる。



「母さん、それは俺から言うから」


「まぁそうね。でも蘭ちゃん碧と一緒になるのだから早めに越したことはないと思うのよ」


「……はい。そうですね」



碧くんと一生を過ごすことになるのはもう決まりきっている事だって分かってる。

でも、それが今すぐだと思うと怖いんだ。


婚姻届を書く事なんて簡単だけど、今書いてしまったら私の全てを奪われるように感じて……。

現実逃避していたい、というのが強い。



「碧、手当はきちんとしているの?」


「大丈夫だよ。蘭がちゃんとしてくれてる」


「そう。あまりやりすぎ無いようにね」



碧くんのお母さんはこれ以上は言うつもり無いのか、笑みを浮かべた。


碧くんに止めるように言ったところで止めるつもりは無いことに気付いてるからだろうけど。

碧くんのお母さんからの視線が逸れたことに内心ほっと安堵すると。



「蘭、そろそろ帰ろうか」


碧くんがそう言った。

帰りたいけれど……チラッと碧くんのお父さん達を見る。


碧くんのお父さんはそこまで関心など無いのか構わないという感じだけど、お母さんの方は少しだけ悲しそうに見えた。

ーー心配なんだろうなぁ。碧くんから連絡入れる訳ではないだろうから。


だからこうやって翠くんを使ってでも会いにこさせたんだろう。




「蘭ちゃんまた碧と一緒に来てちょうだい」


「はい」



頷くと碧くんのお母さんは嬉しそうに微笑んだ。


その笑みにふと、ずっと私のお母さんに会えて居ないことに気づく。

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