第8話

【碧side】



「蘭……。蘭………」



冷蔵庫の中に食べるものが無いと買い物に出かけた蘭を見送った玄関でずっと蘭が帰ってくるのを待っている。

あぁダメだ。

さっきまで蘭が俺の腕の中にいて、ちゃんと俺のものだって認識出来ていたのに。


蘭が居ない今は不安で不安で堪らない。


蘭と出会ってから自分でも自覚できるほど狂っていった。


スボンのポケットに忍ばせていたカッターを手に取り、躊躇なく自分の手首を切りつけると血が溢れた。




「蘭、痛い……だから早く……俺の傍に来てよ」



俺が怪我をすれば蘭は一目散に俺の元へ駆け寄ってくる。他の人間なんて目にも入れずに。

蘭の頭の中には俺だけしか居ない。その事はたまらなく幸福だった。


蘭が早く帰ってこないとどんどん自分で自分を傷つける。


切りつけた箇所の上をまた切りつけ、何ヶ所も切っていく。

痛いけど、この痛みは蘭を縛り付ける枷になると思えばとても幸せだ。



「らんー……早く帰ってこないと、今度は首を切るよ?」



俺を生かしてくれるのは蘭だけ。

だから、早く帰ってきてよ……蘭。






▫️




蘭と出会ったのは高校の入学式だった。




自分が人よりも優れた容姿を持っているのを自覚していた俺は、色んな女の子と付き合ってきた。


だけど恋愛感情として人を好きになったことがない。

言いよってきた子を相手にするだけ。



来る者拒まず去るもの追わずのスタイルでいたから、蘭を見た時は衝撃的だった。


理由なんて無い。

ただ蘭が欲しい。漠然と思った時には行動に出ていて。


放課後、1人でいた蘭に衝動的に話しかけていた。初めて話しかけた内容が『付き合わない?』なのだから蘭が引いたのも当然だ。


だけど、俺は蘭を手に入れないといけない。何がなんでも蘭を俺だけのものにしないと。



こんなにも俺を狂わせたのは他の誰でもない。たった1人ーー蘭だけなのだから責任を取ってもらわないといけない。

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