第43話

抱きしめられたままどのくらい経っただろうか。

ドアの開く音にハッと顔を上げると、そこには無表情の詩音が立っていた。



「し、詩音……おかえり、なさい」


「うん。で? なにそれ」


「え」


冷たい目で私に抱きついている蓮音を見て、詩音が首を傾げる。

なにそれ、って言われても……。



「詩音〜、本当に連れてきたの?」


蓮音がようやく私を離して、詩音にそう尋ねる。


ドキッと心臓が跳ねる。



「蓮音が言ったんでしょ。」


「それは、そうだけどー。やっぱりムカつく。」


蓮音が舌打ちをする。

詩音は不機嫌そうな蓮音の事を気にもとめず、私の方へ視線を向けると小さく口角を上げた。



「春香」


「っ!」


「弟。連れてきてるよ。会いたい?」


「!! ほ、本当?」


まさか本当に会えるなんて思わなくて。嬉しくて声が弾んでしまった。

やっぱり蓮音が言っていたことは嘘じゃなかったみたいだ。


隼と会えなくなってどのくらい経っただろうか。

早く会いたい。



「隼は何処にいるの?」


詩音の後ろにいる様子がなくて、早る気持ちを抑えながらそう聞くと詩音が眉根を寄せた。


その不機嫌そうな様子にビクッとしてしまう。



「そんな嬉しそうな顔をされたら腹立つな」


「っ!?」


「……そんな怯えた顔をしないでよ。」



詩音の普段より低い声音に身体を竦めると、詩音がため息混じりに言った。



「こっちにおいで」


詩音が踵を返し、歩いていく。慌ててついて行こうとしたけど、蓮音に腕を掴まれてしまって前へ進めなかった。



「蓮音?」


「ハルちゃん。弟くんに会ったって絶対にここから逃がしてあげないからね。」


「……」



蓮音の言葉に思わず喉が引き攣った。


期待してない、とは全く言えなかったけど……こうも念を押すように言われると胸が重くなった気がした。


身体を強ばらせる私の腕を掴んだまま蓮音が引き連れるので、そのままついて行く。

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