第42話

「良かったねぇ〜ハルちゃん」


「え?」


何をするでもなく私の様子をずっと眺めてくる蓮音に居心地の悪さを覚えつつ、必死に本を読んでると。


いきなり蓮音がそう言ってきた。


何が良かったというのだろうか。訳が分からず困惑していると、蓮音が口元だけ笑みを浮かべていた。


目が全く笑っていない様子にビクッとしてしまうと、いつの間にか耳にあてていたスマホをわざと落とした。


「蓮音!?」


バリッとフローリングに叩きつけられたスマホの画面が割れる音にギョッとする。



「あ〜あ。まさか詩音が許すわけが無いって思ってたのになぁ〜。」


「し、詩音がなに……? それより、スマホ割れちゃったよ?」


詩音が許す?

そういえば、昨日そんな事言っていたけど……。


「弟くん。ここに連れてくるってよ〜」


「えっ!隼を!?」


「そう。ねぇ、嬉しい〜? 嬉しいよね。だって顔が嬉しそうだもん。」


「っ。」


蓮音が割れたスマホなどもう眼中に無いとばかりに笑いながら私を見つめる。

多分、蓮音は怒っているような気がした。


気配が苛立っているのが分かる。



「ハルちゃんまさか弟くんと一緒にここから出れるなんて思ってないよね?」


「痛っ」


「ね?」


「〜〜っ」


ギリっと肩を押さえつけられ、痛みに唇を噛み締める。

早く蓮音の望む言葉を言わないといけないと。

焦燥感に慌てるけど、痛みで涙さえ滲んでくる。


「お、思ってないよっ」


「うん。だ〜よ〜ね。良かった。その言葉が嘘じゃないって信じてるからね。ハルちゃん」



パッと肩を離され、背中に腕が回されたかと思えばぎゅうっと抱きしめられてしまう。


ようやく痛みから解放された事に内心安堵しつつも、また蓮音に痛めつけられるのではないかと恐怖心が込み上げる。

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