第38話
【詩音side】
「……へぇ。春香がそう、言ってたの」
スマホを肩と耳で挟みポツリと呟く。早く帰るために仕事に取り組んでたのに、俄然やる気を無くした。
自分でも分かるほど声のトーンが下がったと思う。
電話相手の蓮音が苦笑したのがわかった。
『どうする? ハルちゃんは会いたくてたまらないみたいだよ。』
「……嫌だな。会わせたくない。会ったら、春香の意識から俺らは簡単に消えるでしょ。そんなの許さない」
『でもさぁ、会わせなくてもハルちゃんが考えてるのは弟くんばかりみたいだけど〜?』
「…………、」
パソコンに打ち込んでいた手を止め、無意識に自分の爪を齧った。
どんどん気分が下がっていく。
最悪だ。
そんなの聞きたくない。だって、春香が考えるのは俺たちのことだけでいいのに。
なんで春香は俺たちと同じ考えで居てくれないんだろ。
『詩音〜?』
「……先に俺が会っておく。それからにして」
『……詩音が弟くんに?』
「うん。」
『う〜ん……。大丈夫かなぁ。一応言っておくけど、間違っても弟くんのこと傷つけちゃ駄目だよ〜? それはまだまだ使い道があるんだからね』
春香と少しだけ似てる弟ーー隼のことを思い出して、不快感に眉根を寄せる。
あの春香を取り戻そうとする強い意志を感じる瞳が印象的でとても気に入らなかった。
春香はお前のものじゃない。
俺たちのものなのに。
「……善処する。」
『絶対だからね? とりあえずハルちゃんには詩音が弟くんと会うことは言わないでおくよ』
「ん。じゃあ、仕事早く切り上げるから」
『はいはーい』
電話を切り終え、嘆息をつきつつ仕事に取り掛かる。
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