見えない未来

第35話

「ハールちゃん」


「っ!!」



突然耳元で聞こえた声にはっと目を開け、飛び起きた。バクバクと心臓が鳴っている。


汗が額から流れたのが分かった。指で拭い、横を向くと。

少し驚いた顔をした蓮音がいた。



「蓮音……?」


「うん。帰ってきたらハルちゃんが寝てたから。起こさないつもりだったんだけど、魘されていたようだから」


「魘されていた……?」


思わず眉根を寄せる。バサリと音がしたと思ったら、どうやら読みかけの本を床に落としてしまったらしい。


特に夢を見ていた覚えは無いけど、蓮音が言うからには本当なんだろう。

はぁと息を吐いて、顔を覆う。



「蓮音……何時になったら隼と会わせてくれる?」


ずっと気になっていたことをポツリと呟くように問う。蓮音の顔を見るのが怖くて目線を落とした本へと向けたままでいる。


ここに閉じ込められてから1度も隼と会えていない。隼に何もしないことを条件に私はこの2人のものになったのだから、せめて少しは隼にも会わせて欲しかった。



「弟くん? それは難しいかなぁ〜」


「な、なんで? 私は蓮音と詩音のものになったんだから、会わせてくれてもーー」


「ハルちゃん。勘違いしないで? 僕たちはハルちゃんも弟くんもどうにでも出来る。言ったよね? 弟くんの人生ぶっ壊すことも可能だって」


にっこり。

場に相応しくない笑みを浮かべた蓮音に、ゾワッと背筋を凍らせた。


落ちた本を蓮音が拾い、渡してきた。受け取ると蓮音が小さく笑った。



「気が滅入ってるみたいだねぇ。分かった。僕から詩音に言ってみるよ」


「え……?」


「詩音がどう答えるか分からないよ? 期待はしないでねー。僕は少しなら会わせてあげてもいいかなって思っただけだから」


「!」



さっきまでの態度からダメだと思ったのに、まさか蓮音がそう言ってくれるなんて思わなくて驚いた。

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