第29話

「眠れないなら温かいものでも飲む?」


「っ、う、うん。」


このまま寝ようとしても眠れそうにないので、その提案に頷いて身体を起こそうとしたけど。


お腹に回った腕が私の事を離そうとしなかった。



「? ハルちゃん?」


「あ、の……詩音が……」


起き上がらない私に蓮音が不思議そうな声を出したので、そう伝えると。

苦笑いをした。



「あぁ。詩音、離してやってー」


「ん……はる、」


「え、あ」


ちゅ、と音を立てながら耳朶へと唇を這わせてきた。くすぐったくてビクリと身体を跳ねらせると、お腹に回されている腕が更に強くなった気がした。


「……やっ、……んん」


離して欲しくて声を上げようとするが、詩音が舌を這わせ、更に動きを激しくしてきた。

首筋へと下がった唇が甘噛みをし、恥ずかしい声がもれそうになる。


眺めていた蓮音が大きくため息をついた。


「詩音起きてるのに、いつまでそんな茶番してるつもりー? それとも何。態と僕に見せつけてるわけ?」


「春香が気持ちよさそうに声を出すからしてただけだよ。」


「っ!?!」


まるで最初から起きていたかのように寝起きの割にはやけにはっきりした発言に驚く。

目を見開いて詩音を見ると、ふと小さく笑った。



「眠れない?」


「!」


まるで分かっていたような言葉に、口を噤む。多分最初から詩音は寝ていなかった。


「だから今から温かいものでも飲ませてあげようとしてたのにさぁ、詩音が邪魔したんでしょー」


蓮音が呆れた顔をして私の事を抱き起こす。そしてお姫様抱きにしてベッドから身体を離した。


急に目線が高くなったことに慌てて蓮音にしがみついた。



「じ、自分で歩けるよ!?」


「だーめ。勝手に詩音に身体を触らせた罰として、このまま離しませーん」


「っ……」


勝手にって……。こんなの不可抗力なのに。

そう思ったけど、何も言わない方がいいだろう。


蓮音のされるがままになっていると、後ろから舌打ちが聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る