第24話
スっと喉元を撫でられて、小さな悲鳴が漏れた。
ビクッと肩を跳ねらせると、フォークを掴んでいた手の上から掴まれてしまう。
「詩音の機嫌が悪いからぁ、僕が食べさせてあげるね」
「っ、だ、大丈夫」
「遠慮しないでいーよ」
遠慮なんてしていない。
だけど、こうしている間にも詩音が冷たい視線を向けてきているのに身体が強ばってしまいどうすることも出来なくなってしまう。
「えっ!?」
てっきり私の口に運ぶのかと思ったケーキは何故か蓮音の口元に運んでしまった。
だけど、次の瞬間に唇を押し付けられて目を見開く。
すぐ目の前で蓮音が目元をふっと緩める。
慌てて目を閉じると、蓮音の舌が強引に口内に侵入してきた。
「ん!? んんんぅ……んっ!」
何かが入れられたと思ったら、先程のケーキで。
お互いの舌でぐちゃぐちゃにされたそれは味わう余裕など全くない。
吐き出したくなるけれど、蓮音に舌を噛み付かれ痛みに思わず嚥下してしまった。
「ごほっごほっ……っ〜!!」
「うーわ、もうダメじゃんハルちゃん。お口が汚れてますよ〜?」
「っ、だ、誰のせいで……」
慌てて口を拭うけれど、蓮音はクスクスと小馬鹿にしたように嘲笑っているだけで。
悔しさが込み上げてくる。
「蓮音」
「……、はいはい。分かってるってばー、もうそんなに怒らなくたっていいじゃん。ハルちゃんは僕のものでもあるのにさぁ〜」
ブツブツと言いながら私から離れ、ため息を吐いた。
ため息を吐きたいのはこっちだと言いたいけれど、ぐっと堪える。
だけど、次の瞬間背筋を凍らせた。
鋭く冷たい視線が私を射抜き、ヒュッと息を飲む。
詩音が私を見ているけれど、その瞳は暗く淀んだ色をしていた。
ーーー怖い。
「あは。ハルちゃんごめんねぇ〜。詩音を怒らせちゃったみたい。今日は覚悟した方がいいかもね」
あはは、と嘲笑して蓮音は仕事があるから、とこの重苦しい空間の部屋から出ていってしまった。
この状態の詩音と2人きりにしないで欲しい。この時の詩音はとても乱暴になるというのに。
「春香はどうして蓮音にあんなに無防備なの。俺の目の前でキスしている所見せて嫉妬して欲しいの?」
「ち、違う! あれは不可抗力で……、痛っ!」
慌てて逃げようとしたけれど、直ぐ傍まできた詩音に腕を強く掴まれてしまう。
握り潰そうとしているのではないかというくらいの強さで掴まれ、痛みに顔を歪めた。
「折角優しくしようとしてたのに……。気が変わった」
「やっ、詩音! 痛いよっ、」
「ワザと力込めてるんだから痛いに決まってる。春香、ここで犯されるのとベッドで犯されるのどっちがいい?」
「っ!」
どっちにしても乱暴にされるのには変わりないけれど、こんな所でされるのは嫌だ。
蓮音は部屋で仕事しているだろうけど、いつリビングに現れてもおかしくない。
「べ、ベッドで……」
せめてヤられてしまうのなら、固い床でよりはベッドがいい。
か細い声で返すと、詩音はふーんと呟いた。
「じゃあ、その代わり春香は俺に何してくれるの?」
「え……?」
「俺は別にここでも構わないのに、春香の為にベッドにしてあげる。春香の言い分だけ聞いてて、俺には何も見返りだなんてずるいと思わない?」
私の言い分って……。
そんなの詩音がきいてきたから答えたまでなのに。
背筋に冷たい何かが走り、カタカタと身体が震えていく。
詩音を本格的に怒らせてしまったらしい。
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