第22話

春香の頭を撫でると少し表情が和らいだ気がする。


少しは喜ぶかと思って買ってきたケーキだけど、起こすのは可哀想か。

帰ってきたのに春香の声を聞けないというのは残念だけど、これから一生一緒にいるのだから今日は諦めることにした。



「あれ、起こさないんだ?」


「うん。その代わり、一緒に寝るのは俺だから」


「はぁ?! なに、勝手に決めてるの? 昨日もハルちゃんと一緒に寝たの蓮音じゃん!」


喚く詩音に眉根を寄せる。

そもそも春香が寝ているのだって、詩音が悪いのに。


「うるさい。春香が起きるでしょ」


「だって、蓮音が約束破るから……つーかズルいー!」


「詩音が春香を無理させたせいで俺は帰ってきても喋れないんだから、当然でしょ」


「それはっ! そうかも、だけどさぁー。うー、でも僕だって……」


ブツブツと言い出した詩音に呆れた。

全くこれと双子なんて、信じられないくらいだ。とにかく、常温放置はまずいのでケーキの入った箱を詩音に向ける。



「冷蔵庫」


「はぁ? まさか、僕に入れてこいって言ってんの?」


「そう。中身は春香の大好物であるチーズケーキなんだけど」


よく春香が気に入って食べていたチーズケーキの店に赴いて買ってきたんだ。せっかく春香の好きなケーキなのに食べれなくなったら勿体ない。



「あぁ、ハルちゃんが好んで食べていたケーキねぇ〜。 ……わざわざ隣町なのに買ってきたんだぁ? ご苦労さまぁ」


「春香の分しか無いから食べるなよ」


「ハルちゃんのモノだから、食べないに決まってるでしょ? それに僕もだけど、蓮音だってあまりケーキ食べないの分かってるでしょ」



まぁ、そこは双子だからなのか俺たちは甘いものがあまり好きじゃない。

ぼんやりと春香を見つめていると、諦めたかのように詩音が去っていく足音が聞こえてきた。


痩せたな、と思う。

多分、ろくに食べれて無いんだと思うんだけど。

食べれなくなった理由が俺たちにあるなんて認めたくない。


そんなの、おかしい。

だって俺たちに囲まれて春香は幸せな筈だ。

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