第18話

私自身がどうなろうと、この際構わないと思ってしまうけれど、それが弟に矛先を向けられたなら話は別だ。


「や、止めてっ。隼は何も何も悪くないっ」



あの子の幸せが私の幸せでもある。

だから、私がどうなろうとあの子だけは笑顔で明るい日々を送って欲しいから。



「なら、誓って。一生ここに居て、俺たち以外と接触しないって。絶対に逃げないって」


「っ!」


「ふふ。はーい、契約書だよぉ? ペンもどうぞー」



まるで答えが分かっていたみたいに直ぐに目の前に用意された1枚の紙とペンに唖然とする。


ざっと目を通すように言われるけれど、直ぐに理解が出来ない。

恐る恐る紙を受け取り、目を向けるけれど細々とした文字が一面にびっしり書かれていて、最後にサインする所だけがやけに大きくスペースが空いていた。



「間違ったとしても大丈夫だよ。いーっぱい予備は用意してあるから」


にこりと微笑んだ蓮音に、眉根を寄せる。

まさか……これを書かせるがためだけに弟の名前を出された?



「な、何でこんなもの……」


「春香。早く。こいつがどうなってもいいの?」


ペンを持ったまま固まっていると、詩音に催促されてしまう。

そして再度見せられた隼の姿に息を呑む。


これにサインしたら、きっともう戻れないということは分かっていた。

いや、この双子に捕まった時点で日常を壊された。



震える手で名前を書こうとするけれど、2人にじっと見下ろされて手に汗がかいてつるっと手からペンが滑ってしまった。


「あっ、」


「ハールちゃん、だめじゃん。何してんのー?」


からかいを含んだ笑みを浮かべ、ペンを再度持ち直される。

こんなもの今すぐにでも破り捨ててしまいたい。


だけど、底知れぬ暗く淀んだ目で見つめられて身体が固まる。



「春香」


「ひっ! や、止めてっ」


首に手をかけられ、一瞬力を込められる。

恐怖を感じ、今までにないくらい焦った字で名前を書いた。

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