第10話
「よかった」
「え?」
スっと指を離したかと思うと、ポツリとそう呟いた声に目を見開く。
何がよかったというのだろうか。
こっちは首を絞められて苦しい思いをしたのに?
「何か勘違いしてる?首に痕付いてなくてよかったね、ってことだよ」
怪訝な顔をしたことがバレているのか、詩音が苦笑いしながら今度は頬をつついてきた。
ーーペシンッ
思わずその指を払うと、思ったよりも大きい音が鳴った。
「あ、ご、ごめんなさ……」
慌てて謝ろうとするけれど、詩音の顔を見てヒュッと声を噤んだ。
端正な顔立ちをした人が無表情になると底知れない恐ろしさを抱くのは私だけだろうか?
「痛いよ、春香」
「っ!ご、ごめんなさ……っ!」
咄嗟に謝ろうとした瞬間、後ろから身体を引き寄せられてそのまま抱きしめられてしまった。
驚いて振り返ると、ヘラと作ったような笑みを浮かべた蓮音が私を抱き締めていた。
「詩音ー、ハルちゃんは僕のものでもあるんだからあんま怖がらせるなって。ほーら、怯えてんじゃん」
ピトっと冷たい感触が頬に当てられ、ビクッと肩を跳ねらせるとソレがなんなのか分かった。
どうやらペットボトルらしい。そのボトルには水と書かれていた。
さっきまで蓮音に恐怖心を抱いたというのに、今は助かったという気持ちの方が大きい。
蓮音がジッと私を見つめてきたので、小さくありがとう、と呟いた。
ボトルのキャップを開け、口につけると、ふと蓮音から言われたことを思い出した。
『あまり怒らせない方がいい』
その言葉の意味が少し分かった気がした。
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