第9話
「春香、蓮音のことは無視していいから」
「うっわ、酷ーい。そんなこと言うー?」
「五月蝿い。俺が来なかったらどうするつもりだったんだ」
詩音が深い溜息をついて、涙を拭ってくれた。
鬱陶しそうに詩音が蓮音を見つめる。
その瞬間、冷たい空気が流れた気がした。
「はっ。嫌だなー、詩音。そんなムキにならなくてもいいのにー」
ニッコリ。
微笑んだ蓮音は場を和ませるかのように、声を明るくした。
白々しい、そう思いつつもほぅとため息を吐く。
「蓮音」
「はぁ、はいはい。悪かったよ、僕が悪かったですー」
「……次、こんなことするようなら俺にも考えがあるからね」
詩音は冷たい瞳で蓮音のことを見つめ、私の手を取って立たせてくれた。
そのままベッドまで誘導してくれた。
「春香、水飲む?」
「え……う、ん」
大丈夫、と言おうと思ったけれど有無を言わせない瞳で見下ろされ思わず頷いていた。
「蓮音、春香が水欲しいって」
「えぇーパシリ扱いー?」
「春香にちゃんと謝ってないだろ。持ってきなよ」
「……チッ。詩音うざー」
不満気な顔をしたまま蓮音が去ったと思うと、急に喉元を指でくすぐられた。
予想もしていなかったことに驚き、詩音を見つめると無表情でひくり、と口端を引き攣らせた。
怖い……。
ただそのことしか思えない。
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