第8話

喉を圧迫していた手が緩み、急激に酸素を取り込んだことによって咳き込んだ。


「ごほっ……っは、」



苦しい。

バクバクなる心臓が痛み、胸元を手で抑える。

ガシャン、と手枷の金属音が鳴り響く音がやけに大きく聞こえた。



「お帰りー、いつの間に帰ったの?」


「詩音。勝手なことしないでくれる」


「……、勝手なこと、ねぇ。ハルちゃんは僕のものでもあるって分かってるかなぁ」


「だからって春香を苦しめていいことにはならない」



苛立ったような口調で詩音が嘲笑を浮かべた。

初めてこの2人が喧嘩しているような場面を見て、驚く。


「春香、遅くなってごめん。大丈夫?」


「え、う……ん」



蓮音はしゃがみ込む私に目線を合わせるように腰を下ろし、カチャカチャと何かしら首元で音がすると思ったら首輪を外してくれた。


ここに監禁されてから肌に触れていた物が外れ、スっと軽くなったような感覚がする。



「詩音なーに外しちゃってんの」


「一時的だ。よりにもよって首を絞めるなんて、赤くなってるだろ」



詩音は平坦とした口調で返すと、私の首元をそっと撫でた。

冷たい手にビクリと小さく身体を跳ねらせる。


それを見て蓮音が歪んだ笑みを浮かべた。



「ハルちゃん、馬鹿だなぁ。僕がだーい好きなハルちゃんを殺すとでも思ったのぉ?」



嘲笑うかのように言われたけれど、そんなことよりも助かったことに安堵する。

気づけばボロボロと涙を零していた。

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