第3話
鬱陶しそうに顔を顰めてそう彼が言うと、舌打ちが聞こえた。
「先にハルちゃんに触れていいのは僕な筈だったんだけど?」
「そんな約束してない」
「約束云々じゃなくてさぁー、提案したのは僕なんだけどー?」
何やら言い合いを始めてしまった2人に唖然とする。
今の状況も忘れて、ただ2人を見ることしか出来ずにいると。
ふと、茶髪の人が私を見た。
「あ、ごめんねぇハルちゃん。つい詩音と言い合いしちゃった」
「っ、あ、あの……っ」
「それより、春香。俺たちのこと何も覚えてないの?」
2人の視線が一気に向き、思わず口を噤む。
黒髪の人はさっきからそう言っているけれど、この2人のことを全く知らない。
だけど、その発言からして本当はこの2人と面識あるのだろうか。
今までに出会っていたら、忘れられる筈ないと思うのに。
「詩音、あまりハルちゃんに負担かけない方がいいんじゃない?」
「……。そう、だね。ごめん、春香。今の忘れて」
「え、あの……どういうこと?」
そんな急に忘れてだなんて言われたって困る。
だって、私のことを知っているみたいなのに……私だけこの2人のことを知らないだなんて不公平だ。
「それよりも! ハルちゃん、どうかなぁ? この部屋は♪」
明らかに話を逸らされてムッとするが、その問いにキョトンとしてしまう。
どうって……。
「……、この手枷とかとって欲しい……」
自分の手を動かす度にジャラと鳴る音が不快で、眉を寄せる。
「それはダメ。春香を逃がさない為にしてるから」
「詩音の言う通り、ここからハルちゃんを逃がさない為だから絶対に無理だねーそれは♪」
逃がさない、って……。
訳が分からないよ。
「それより、部屋はどう?」
部屋は、って言われても……。
さっきから息が詰まるような気がしてのは、窓がないからだ。
いや、窓らしきものはあるけれど外を見れないように板がはられていて格子で覆われている。
ワンフロアの部屋らしいが、全体的に薄暗い印象で。
心地がよい、とは言えなかった。
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