第9話

「紗奈は、優しかった。こんな僕にでも……優しく手を差し伸べてくれた。だから、好き。紗奈だけ」



何を言っているのか直ぐに理解出来なくて。


戸惑うと、弟さんが手を伸ばし私の頬に触れた。


「っ、ん!?」


弟さんの顔が近づいた、そう思った時には唇を重ねられていた。

すぐ目の前にある綺麗な顔に、目を見開く。


そして、閉じていた瞳を薄く開きじっと見つめられたことに羞恥がわき、慌てて目を閉じてしまうと。




「っ、んっあ、んぅ!」


「……ん」



ぐっと入り込んできた舌が、私の口内を好き勝手に暴いていく。

ぐちゅ、と舌の絡まり合う水音がやけに大きく響き、かあっと顔が熱くなるのが分かった。


全く何も分からない人とキスをするのだって、混乱してしまうのに何でこんなキスを……っ。


抵抗をしたくても力が入らなくて、されるがままになってしまう。



「んっ、は、」


漸く唇が離された時には、息も絶え絶えになっていて。は、はと荒ぶる呼吸を必死に整えようとする。


なのに。



「紗奈ちゃん可愛い。あぁ、その苦しそうな顔とても好き」


「……っ!?」


直ぐ間近でうっとりと陶酔したような声音がしたと思ったら、佐久間さんが今度は私の唇を塞いだ。


「んっん〜!!」


息苦しさに、必死に佐久間さんの肩に手を置いて引き離そうとするが手に力が入らない。

何で力が入らないの……!?



「ふふ、可愛い……」


「んっ、んん!」


キスの合間に佐久間さんが呟くが、その隙に顔を背けようとするのに固定されてしまう。


何でこんなことになっているのか。

全く分からなくて。



息苦しさから意識が真っ白になっていく。


里奈を早く助けてあげたいのに……。



もう、だめだ……ーー。


ごめ……ん……里奈…………。

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