第16話

柊くんから視線を逸らして俯く。

すると、柊くんが苛立ったように舌打ちをして私の顎を掴んだ。


無理やり上げさせられ、首に痛みが走る。


「梓ちゃんはほんと酷いよね。浮気者。僕という恋人がいながらあんなやつとずっと居たんだから」


「やっ、」


ドサッとソファーに押し倒され、鎖の擦れる音が響く。起き上がろうとした時には柊くんが覆いかぶさっていて。


じっと柊くんの瞳が私を見下ろす。


「なんで……僕を捨てたの……」


「っ!、柊くん」


ボタボタと零れ落ちてきた涙に目を見開く。

あの柊くんが泣くなんて想像もしていなかった。


「僕は梓ちゃんだけ愛してるのに。君が目の前から居なくなったあの日から、こんなにも胸が張り裂けそうなのは僕だけだった? 」


「……っ」


「梓ちゃんに捨てられて僕が生きていけるわけないのに。酷いよ梓ちゃん……」



泣きながら噛み付くようにキスをされる。こんな弱々しい姿を見せる柊くんに抵抗する事なんて出来るわけがなくて。


されるがままになる事しか出来ない。お互いの吐息が荒くなり、飲み込めなくなった唾液が口端から零れた時、ようやく唇が離れた。



「はっ、はぁ……っ」


「……もう絶対に逃がさない。梓ちゃんがアイツと浮気してようと、アイツの子供を孕もうと絶対に逃がさないよ。梓ちゃんは僕のものだ」



ゾッとする程の暗い瞳が私を一心に見つめる。

柊くんの事を愛していた。愛していたから別れた方がいいと思って、彼の前から逃げたのに。


「っ柊くん……」



私に未だに執着し、拘束する彼から逃げることなんてもう不可能なのかもしれない。

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