第5話

なに……?

なんの話しをしているの。何でお母さんが出てくるの……?


確かにこの2年間、お母さんには連絡も取っていなかったし、会いにも行けてなかった。


それもこれも原因は私の目の前にいる柊くんなんだけど、それを口に出せる程私は強くない。



「はは、僕の前から消えてから梓ちゃんってばお義母さんに連絡1つ寄越さなかったもんね」


「お、お母さんがどう、」


「うん。教えない」


ばっさりと切り捨てられ、口篭る。

柊くんが怖いけど、お母さんが心配だった。


「教えて欲しい?」


柊くんの嘲笑うかのような、揶揄う様な声に不安を感じながらも頷くと。

こてんと態とらしく小さく首を傾げだ。



「うーん。そうだなぁ、直ぐに教えるのは割に合わないよね」


「っ、」


柊くんがぐっと腕を引き、私の体を引き寄せた。不本意にも柊くんの腕の中にいる体勢になり顔が青ざめる。


直ぐに間近に感じる柊くんに、悲鳴をあげそうになった。



「そうだ。梓ちゃんと浮気相手の住んでるマンションに案内してくれるよね?」


「ーー!」


ピタッと頬に当てられた小さめの折りたたみ式包丁に、私は絶句したのだった。


ひゅ、と喉が鳴る。


「ね? 梓ちゃん」


柊くんが笑う。暗い瞳のまま。

ーーあの時よりも壊れてしまった柊くんに、私は言葉を失うことしか出来なかった。

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