第4話

「しゅ、柊く……ーー」


まずい。

彼と目が合った瞬間、私の中で思ったのはまずその事で。


彼から逃げないと、と直ぐに思った時には駆け出していた。

全身から冷や汗が出る。


血の気が引いていくのが自分でも分かってしまった。


な、何で柊くんがここに居るの!?

柊くんはこの辺に住んで無い筈なのに。


涙が出そうになるけど、泣いてる時間など無い。一刻も早く彼から逃げて、あのマンションに戻らないと。


「駄目だよ。」


「っ、きゃああ!」


パシッと腕に感じた温もりに、悲鳴が漏れた。ググと手首を締め付ける力の強さに涙が溢れてしまう。


誰か、誰か助けて。震える中必死に周りを見渡すけど、誰一人見かけない。


それもそのはずで。


早く柊くんから逃げたいあまり、人通りの少ない裏道へと私は入ってしまっていた。



「酷いなぁ。僕を見て逃げ出すなんて。それに梓ちゃんは僕が1番嫌なことしていたんだから本当酷いよ。」


「な、何で柊くんが、」


「何でだなんてそんなの愚問だね。僕は梓ちゃんを迎えにきたんだよ」


「む、迎え……? わ、私たちはもう別れてーー」


「ーーはぁ。梓ちゃんさぁ、僕をこれ以上苛立たせないでくれない?」


「っ」


柊くんの普段よりも数段低い声のトーンに、身体を揺らす。

真っ暗な闇を感じさせるかのような暗い瞳が私を捕らえる。


まるで蛇に睨まれた蛙だ。



「梓ちゃんさぁ、幾ら喧嘩したからって流石に2年も行方不明になるのは卑怯なんじゃない? 梓ちゃんのお義母さん、梓ちゃんが僕から逃げたことによって酷いことになってしまったよ?」


お母さんのことが出て、はっと目を見開く。

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