第3話

その後も何かと触れようとしてくる先輩と攻防戦をしていると、気付けば先輩の家に着いていたらしい。



「お帰りなさい〜! 待ってたのよ、美羽ちゃん」


「っ!!? こ、こんにちは……」



構わずキスでもしてこようとする先輩に腰を引いてると、真後ろから聞こえてきた可愛い声にハッと振り返ると。


そこには柔らかく微笑む美人な女性が立っていた。

相変わらず可愛いし、綺麗なこの人は累先輩のお母さんだ。


このやり取りを見ておいて何とも思わない神経が凄い。

いや、これは微笑ましいと思っている表情なのかもしれない。



「ふふ。やっぱり可愛いわ! 累くん、今日は美羽ちゃんお泊まりなんでしょう? お母さん張り切って料理作ったのよ」


「ありがとう、母さん」



2人が並ぶと親子じゃなくて姉弟にしか見えないのよね。

累先輩はお母さん似だ。

お父さんも凄い美形だけど、累先輩の弟である慧くんの方がお父さん似かな。



「母さん、兄さんたち来てるのにいつまで玄関で喋ってるの?」


「あら、そうね。ごめんなさいね、美羽ちゃん。家に上がって頂戴」



先輩のお母さんの後ろから現れたのは、慧くんだった。

相変わらず兄弟揃って美形だ。



「こんにちは、美羽さん」


「こんにちは。お邪魔します……っ!?」



不本意だけど。

笑顔で挨拶され反射的に私も笑顔で返すと。

後ろにいた先輩に強引に振り向かされた。何事かと驚く暇もなく、唇を強く押し付けられてしまう。


瞳を見開くと、先輩の切れ長の瞳が真っ直ぐ見ていることに気づきハッとして口を閉じようとするけれど、それよりも早く先輩の舌が口内に入ってきてしまった。



「んん……んんっ〜」


慧くんと先輩のお母さんが見ているというのに、お構い無しでしてくるので慌てて抵抗するけれど身体を抱き締められて、離れることは不可能だ。


漸く離してもらえた時にはぐったりとしてしまった。




「あらあら、情熱ねぇ」


「兄さん、見せつけてこなくたって美羽さんをとったりしないから安心してよ。それに俺には大切にしている恋人がいるの知ってるだろ?」



お母さんの方はふふと朗らかに笑っているし、慧くんに至っては飽きれている。



「美羽ちゃんから可愛い笑顔を向けられるなんて許せないからね。いくら弟だからって、美羽ちゃんもダメだよ? 俺以外に可愛い笑顔を見せるなんて」


「……」



親と弟の前で深い方のキスをしている所を見せて恥ずかしさとか何も感じていないのが凄いというか……。この人に何言っても通じないんだろうなぁと思うと、口を噤むしかない。


先輩が嫉妬深いのは嫌という程知ってしまっているけれど、弟にまで嫉妬するなんて……飽きれた顔をすると。


何故か頬を赤くして息を荒くしてきた。



「あぁ……そんな上目遣いでトロンとした顔を見せて、とても可愛いなぁ……。今すぐ食べちゃいたいくらい可愛い」


「あの、先輩のお母さんも居ますし慧くんもいるのでこんな所で興奮しないで下さい」


「ふふ。美羽ちゃんは焦らすのが上手になったよね。美羽ちゃんがあまりにも可愛いから何でも許してしまうよ」



いや、焦らしなんて言いがかりだししてないんだけど。

常識的に考えたら止めるのが普通だよね。

だって、ここで私の身体触ろうとしているし。


隙を見て慌てて離れて先輩の家に上がる。

相変わらず大きい家だ。

私の家とは違い、先輩は裕福な家庭で部屋も大変広い。



「兄さん、どうせ部屋に籠るんだろうし母さんが用意したご飯を運んだら?」


「そうだね。そうするよ。ありがとう、母さん」


慧くんの発言に思わずぎょっとする。



「安心してね、美羽ちゃん! 覗いたりしないから」


「!? え、えと……」



先輩のお母さんも何言っているんですか!!?

なんて返したらいいのか悩むし、先輩のことをはっきり言って止めてもらいたいのが本音なんだけれども。



だけど、結局は機嫌がいい先輩に引き摺られるがまま

先輩の部屋に連れられて、鍵を掛けられてしまったのだった。

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