第2話

最初に会話した時も言っていたけれど、名前を呼ぶのはハードルがいるんだよね。


だって先輩と違って私は地味といっていいくらい凡人だし……。

恐れ多いというか。



「名前呼んでくれないと離してあげないことにしようかな」


「え!」


「だって悲しいだろう? こんなに愛し合っていても名前で呼んでくれないのは」



悲痛な声で言っているけど、体勢がいただけない。

首筋に顔を埋めて、唇が当たってるんですけど?


というか今舐めた!?

ハァハァと荒い息が当たってこしょばゆいんですけど!?



「わ、分かりました、分かりましたから離れて下さいっ」


「じゃあ今すぐ呼んで?」



離れて、って言ってるのに離す気が全く見れない。

名前を呼べば本当に離れてるくれるのだろうか……。



「……累先輩」


「っ!! か、可愛い!! 美羽ちゃんに名前呼んでもらえただけでとても幸せだよ!!」


「えっ、ちょ!? 痛っ、痛い!!」



背骨が折られるんじゃないかというくらいの強さで抱きしめられ、痛いと訴えるけれど感極まったと言わんばかりに更に強くされるってどういうことだ。


どさくさに紛れて制服の裾から手を入れてお腹を撫でてきてる!



「だめ、ダメです!! ストップ!!」


「はぁ……。そうだね……こんな所でまた襲う訳にはいかないし。仕方ない我慢するよ」


「一生我慢してくれてもいいんですけどね?」


「うん? とても面白い冗談だね」



冗談じゃない……。というか言葉が通じない。

流石にまたここで襲うことを留まってくれたようで、しぶしぶとだけど離れてくれた。




「美羽ちゃんとずっと一緒にいたいのに、時間が経つのは早いね」



憂いを帯びたため息をつきながら私の手を優しく引き寄せる先輩にドキッとしてしまう。



空き教室から出れた頃には外が薄暗くなっていた。


そういえば携帯を見ていなかったと思い、確認すると。




「えっ!?」


「ん? どうかした?」


「……、いえ、何でもな……ハッ!!! まさか」



バッと携帯から顔を上げ、ニコリと微笑みながら見下ろしてくる先輩を見る。

小首を傾げる姿は様になっているけれど、絶対確信犯だ。



「お母さんに何か言いましたね?」


「どういうことかな? 何か連絡来てたの?」


「しらばっくれないで下さい。どうして"泊まってきて大丈夫よ"って音符付きで連絡が来るんですか」


「わぁ、とても嬉しいな。今日も美羽ちゃんとずっと居れるんだね!」



ルンルンしている先輩に飽きれた視線を向けるけど、何のそのだ。

お母さん……泊まってきていいって、許可しないでもらいたいんだけど。


……うん。お母さんは塁先輩に懐柔されまくっててダメだろうな。

この笑顔でお願いします、って言われたら例え悪いことだろうと直ぐに許可出しちゃうぐらいだし。


逃げ出したくてもグイグイと強く引っ張られてしまうし。離すまいとガッチリ手掴まれてしまってる。




「お泊まりセット用意してないんですが………」


「大丈夫だよ。美羽ちゃんがいつお泊まりしていいように常に用意出来てるから。下着とかもあるから心配しないでね」


「え"!? し、下着……」


「美羽ちゃんのサイズはこの目でばっちり確認済みだし、新品だからね」



誰が買ったのです……??

まさか先輩本人が女物の下着を買ったの??


何時でもお泊まり出来るように用意していたのも怖い。

はっきりいって気持ち悪いと思うし、この人との初対面の時も……気持ち悪かったからなぁ。



「ふふ……今日も美羽ちゃんのコレクションが増えるなぁ。楽しみだ」


「……」


独り言のつもりなんだろうけど、聞こえてますから。

コレクション……前に先輩の家に無理やり連れてこられた時に、処分した筈なんだけどなぁ。



「美羽ちゃん、写真。撮らせてくれるよね?」


「いやです」


「ふふ。そんなこと言って美羽ちゃんは優しいもんね。撮らせてくれるんだ。まぁ、快楽に落ちると美羽ちゃん積極的になってくれるからね。あぁ、早く帰って素肌で触れ合いたいよ」



……おい。

外で変なことを言うの止めて欲しいし、ハァハァし過ぎて怖い。


なんて返したらいいのか悩んでると、お尻に違和感を感じた。



「!? 外で何しようとしてんですか!!」


「ご、ごめんね。つい美羽ちゃんが可愛すぎて」



お尻を撫で回してきたので、手を思いっきり払う。

きっと睨むけど、先輩はヘラヘラ笑うだけだった。


可愛いと言えば何でも許してもらえると思っていないかなぁ、この人。

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