溺愛され過ぎて困っています

第1話

「ふっ……んん、待っ、」



壁に押し付けられ、両足の間には長い足が挟まり逃げる術を奪われた私は相手のなすがままになるしかなく。

顎を掴まれ、背けることも出来ない。


(もう、何でこんなことに……っ)



私の口内を好き勝手に犯す相手を精一杯睨みつけたけど、真っ直ぐ見つめてくる綺麗な瞳が少しばかり伏し目になるだけだった。



どちらかのか分からない唾液が私の顎に伝う。その感触にブルッと身体を震わせた。


ーーこのままでは、ヤられてしまう。



頭の中では逃げられる作戦を考えようとするけれど、先輩からのキスが激し過ぎて意識が遠のきそうになってしまう。


また流されるであろうことはここ数ヶ月で経験済みだった。








"岡崎累"

この名前を聞けば誰しもがあの彼だと直ぐに分かるくらいこの学校では有名人だ。


類まれなる美貌に頭脳明晰で更に運動神経も抜群。そして性格もとても優しく温厚だとか。


周りに人が居たとしても直ぐに彼を見つけることが出来るくらい凡人とはかけ離れた人だ。


そんな彼は私の1つ上。

学年も違うし、全く接点もない雲の上の存在である彼と何故か私は関わりを持ってしまった。



今思い出しても、あの時逃げれば良かったのにと過去の自分に怒りが込み上げる。


でも、あの現場は衝撃的過ぎて、身体が固まってしまったのだ。




「美羽ちゃん、起きて」


「っ!? う……痛たた……」


「あぁ、急に起き上がるから……。ねぇ、大丈夫?」


「……全然大丈夫じゃないっです。腰が尋常じゃないくらい痛いんですけど、まさか私が気を失っている間もしてませんよね?」



ジト目で先輩を見るけど、ニッコリと微笑まれるだけで何も返ってこない。

うん、笑えば何でも済むと思ってるんだろうなぁ……私は絶対許さないけど。


痛む腰を摩りながら、ため息をつく。



「あっ!! 今何時ですか……?」



先輩に襲われ、私が気絶してしまってからどのくらい経ったのかと慌てて時刻を聞く。



「まだ18時過ぎた頃だから大丈夫だよ」


「いや、大丈夫じゃないかと……」


「心配しなくても俺が送るから大丈夫。義母さんにも挨拶するから」



いや、私のお母さんに挨拶はしなくて結構ですが。


見目麗しい先輩にお母さんはもう懐柔されまくってて、私と先輩がいつ結婚するのかとワクワクした顔をしながら聞いてくるのが煩わしいくらいだ。


というか私と先輩は正式に交際しているとはいえないような……。

まだ認めてないんだけど、先輩とお母さんではもう結婚前提のお付き合いだと思っているらしい。



「学校で襲うのは控えて欲しいと何回も訴えてるんですけどね?」



ぐちゃぐちゃにされた制服を綺麗に整えようとしたけど、先輩が手を伸ばして勝手にボタンをかけていってしまう。

そして私が気絶している間に濡らしてきたタオルで太ももなどを綺麗に拭いてくれた。



「美羽ちゃんを見たらつい、ね。これも愛しているからこそだと思って許して欲しいな」


「だからって人が気絶するまでしないで下さい」


「んー……。美羽ちゃんが体力無いだけだと思うんだけどね」


「……、」



いい笑顔で人を馬鹿にしてきたので、綺麗な顔だろうが知らない。

その頬をぶっ叩いてやった。



「痛い……酷いよ」


「どっちが!ですか」



右頬を手で押えてしゅんとする先輩にうっと罪悪感が込み上げるけどこれに騙されてはいけない。


自分が魅力的なのを自覚しているが故なのか、悲しそうな顔をすれば周りにどんな効果が出るのか分かっている。



「先輩が悪いんですよ」


「ねぇ、そろそろ"先輩"じゃなくて名前で呼んでよ。2人きりの時は呼んでくれる約束なのになぁ」



え、

今その話する??

折角整えられたというのに、また覆いかぶさってきている先輩に嫌な予感がする。

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