第16話

「先程はすまなかったな」


書類に何かを書き込みながら、大王が口を開いた。

目も合わないが、おそらく自分に向けて発せられた言葉であろうと察した幸人はピンと背筋を伸ばす。


「こっちこそ、なんかいろいろすんませんでした」


「いや、事情も聞かずに制裁を下した俺の落ち度だ。小僧は謝らなくていい」


随分と律義な人だが、同年代の見た目をしている者に「小僧」と呼ばれるのはあまり良い気分ではない。

幸人はむっと唇を尖らせた。


「それよりも、聞きたいことが二、三ある」


淡々とした口調で大王が問いかけた。


「お前、何故あの空間にいた」


あの空間とは、言わずもがな大王のプライベートエリアである。

幸人は「うーん」と唸り、頭を搔いた。


「最初は大人しくしとくつもりだったんだけど、なんか急に『俺はここにいちゃいけない』って思ったんすよねえ……」


「なんやそれ」


オレンジ髪の男が突っ込んできたが、幸人だってよく分かっていないのだ。


衝動的な感情を自覚し、気が付いたら監視の目を振り切って逃げだしていた。

あてもなく走り回り、どこかの欄干から飛び降りた。


それがどうもマズかったらしい。


自分が飛び降りた先に閻魔大王が居て、幸人は図らずも大王の上にダイブしてしまった。

それからなんやかんやあり、今幸人はここにいる。

実によく分からない。

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