第9話

「あんた……」


少年の驚いたような顔と声が、同時に迫る。


「閻魔大王なのか!?」


いつの間にか超自然現象は鳴りを潜めていた。

あれほど騒がしかった回廊は静まり返り、刺すような沈黙が、しばし二人の間に舞い降りた。


「……何故今気づく」


遅すぎやしないか、と言う呆れの言葉は喉の奥に消えて行った。

少年がふと意識を失い、こちらへ倒れこんできたからだ。

大王は反射的に手を伸ばし、少年を抱き留めた。

結果、抱擁するような体勢となってしまった。


すやすやと寝息を立てる少年。

大王は、本日何度目か分からないため息をついた。


ここまで図太い神経を持つ死者を見るのは初めてかもしれない。


「大王様!そちらに逃亡中の死者が……」


ばちりと目が合ったのは、裁きの間から駆け出してきた秘書の識である。

識は大王と目が合うと、その視線をそのまま大王に抱き着いている少年へと流した。

視線がまたこちらへと流れ、少年へと移った。


冷え冷えとした沈黙。


大王は、睡魔と疲労と混乱でおかしくなった頭でこの状況を説明する言葉を探す。

その結果、実に愚かしい一言が口から飛び出た。


「誘拐したんでは、ないぞ」


「……」


そんなことは分かっとるわ、と言わんばかりの識の瞳に、天井を仰いで息をつく。

秘書の納得する説明ができるまで、休眠はお預けとなりそうだ。

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