第7話
「重い……。退け」
未だ己の背中の上から降りようとしない少年を振り落とし、大王は立ち上がった。
ねめつけるように少年の姿を眺める。
少年は白い着物を着ていた。
着物と言っても、白い布を白い帯で腰のあたりで止めただけの、粗末なものである。
そして額には、三角におられた巾。
そう言えば犀——先程の長身の男——が、罪人が一人逃げ出したと……。
「……貴様か」
相手が誰であるか認識した瞬間、大王は少年の襟首を掴み上げた。
少年の顔色が、青を通り越して土気色になる。
睡魔と疲労が相まって、大王の人相はとんでもないことになっていた。
どれくらいとんでもないかと言うと、この世のどんな極悪人もがひれ伏すような、そんな状態だ。
「面倒だ。ここで判決を下す」
大王は胸元にしまっていた扇子を取り出すと、コンと壁に打ち付けた。
瞬間、大王の視界に文字列が流れ込んでくる。
名前、生年月日、没年月日、死因、性別————
それらは、少年の基本情報である。
閻魔大王には、特権として死者の個人情報を見る能力が与えられている。
本来であれば、この基本情報に加え、生前の行いを鑑みて判決を下すのだが、今の大王にそんな寛大さはなかった。
「死後、閻魔宮にての逃走は極刑に当たる。よって貴様を、閻魔大王の名の下に———」
地獄行きとする。
そう言い終える前に、大王の口を少年の手が塞いだ。
もがっと呻く大王を壁に押し付け、少年は焦った様子で唇の前に人差し指を立てた。
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