第3話

「子供っぽいことはおやめください、大王様」


「うるさいぞ、識。俺は疲れているんだ」


「であるならば、ちゃんと自室でお休みください。他の者に示しがつきません」


「他の者って誰だ?」


「他の者は他の者です」


素っ気なく言い放つ秘書を、食えない鬼だと思いつつ、頭が上がらないのも事実。青年は素直に自室で休むことにした。

立ち上がり、椅子から降りる。

耳飾りがシャランと音を立てた。


「大王!」


部屋の扉が勢いよく開き、長身オレンジ髪の男が入室してきた。ノックがない所から察するに、相当切羽詰まっていると分かる。

男は、自分より背の低い青年に合わせて腰を屈めた。


「えらいこっちゃ!罪人の一人が逃げ出しよった!」


「ああ、そうか」


焦り顔の男とは対照的に、青年は実に素っ気なく返事をした。

長身の男は「そうか、やないねん!」とやかましく騒ぎ立てる。


「ただでさえ人手不足っちゅーのに、罪人捕獲のためにまた何人も駆り出されてんねんぞ!みんな対応しきれんで大わらわや!」


「そうか。なら識を向かわせる」


名指しされた秘書は「私ですか?」と目を丸くしているが知ったことではない。

青年は長身の男を通り過ぎて部屋の奥へと向かう。そこに設置されている扉をくぐり、自室へ続く廊下へと出た。

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