第13話

洗面所に立ち、水で顔を洗う。


「ふう…。」


顔を洗い終わって、テーブルに戻ると、ルキが一足先に椅子に座っていた。


「さ、食べて。」

「ありがとう。」


ハムっとパンをかじる。柔らかい感触が口の中に広がる。


「美味しいー。」

「そう?良かった。」


ルキは満足そうに、真緒を見つめていた。




朝食が終わり、食器を流し台に置いて、時計を見ると、6:30を回っていた。


「食器は洗っておくよ。

だから、早く準備しなよ。」


「ありがとう、任せるね!

あ…今日は少し遅くなるから、家の中で自由にしていてください。」


「分かった。今日は大人しくしておくね。

この世界にも来たばっかりだし。」


「あと、ルキにはカラコンがいるんじゃないかと思うから、買ってきます。」


「カラコンって?」


「瞳の色を変えるやつ。

赤い瞳じゃ、目立し、外に出づらいと思うから。

茶色でいいかな?」


「確かに、赤い瞳のやつなんてこの世界にはいないもんな。

真緒に任せる。」


「うん!なら、そういうことだから!

あと、何かあったときのために、スマホと、家の鍵も渡しとくね。」


「スマホ?」


「電話機のことね!遠く離れていてもお話ができる機械なんだよ。

何かあれば、この、スマホを使って連絡してきて。」


「へー、面白いね。」


「吸血鬼の世界には無いの?」


「そんなものなくても魔法で連絡取れるしね。」


「そうですか…。」


一通りのスマホの使い方を教えた。

これで、ルキに何かあれば、連絡ができて、お話ができる。


「じゃあ、自由にしてて!」


そう言って、真緒は急いでシャワーを浴び、急いでスーツに着替えて、化粧をする。


あー、バタバタの朝だ。


時計の針は7:30を指していた。


会議の書類を入れて、玄関に行く。


最後に、ルキの様子をうかがう。


ルキは与えられたスマホで、必死に操作を覚えていた。

その様子に少し癒やされながらも、玄関を出る。


「いってらっしゃ~い。」


後ろから、暢気な声が聞こえた。







朝の光を感じながら、駅まで走る。


そして、朝の満員電車に乗り込む。


電車に揺られながら考え事が頭をよぎる。


ルキのことが少し気になるけど…。


まあ、大丈夫か。


あ…吸血鬼って、昼ごはんはどうするんだろう?


そんな事を思いながら、電車は目的地につく。


駅から少し歩くと、立派なオフィスビルが見えてきた。


そのオフィスビルに真緒は入っていく。


自動ドアを入ったところで、おーいっと言う声に呼び止められる。

後ろを振り返ると、同僚の飯田カレンが声をかけてきた。


「カレン!おはよう。」


「おはよー!もう!なんで昨日はあれから返事を返してくれなかったのー?」


「あーーー…。」


「あ!!やっぱり、柊木さんと何かあったんでしょう!?」


「ひっ…柊木さんとは何もないよ!」


「その慌てようは怪しいなー。」


「そ…それより、大阪出張はどうだった?」

これ以上追求をされたくないので、慌てて話題を変える。


「むー、まあいいや。

大阪出張は最高だったよー!

商談もうまくいったし。」


「良いねー。

今日の会議で成果を報告できるね。」


「そうだねー。緊張するけど。」


日常の何気ない会話をする。



まさか、昨日、吸血鬼に遭遇して、血を吸われたなんて、誰にも言えない。

しかも、”奇跡の血”を探しているなんて、そんなファンタジーみたいな話言えない。

おまけに、家に吸血鬼が居るなんて。


絶対にバレてはいけない!!

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