第9話

「ちょっと、ワインを飲んでもいいですか?」


現実から逃げたくなった。


ささっとキッチンまでワインを取りに行き、ワイングラスにワインを並々注ぐ。


すごく飲みたい。

じゃないと今からの話に耐えられそうにない。

もう、ただでさえ、非現実的な事を聞かされて、頭がおかしくなりそうだった。

人間というのは精神的に脆いものだ。



一気にワインを口の中に流し込む。

アルコールが喉に焼け付くようだ。

気分が吹っ飛ぶ。


時計の針は夜の22:00を指していた。


ルキは真緒の様子を黙って見ていた。


「はあ~ーーーーー。おまたせしました。

続きをどうぞ。」


「そう?なら、話すね。

俺は元々、吸血鬼がいる世界に住んでいる。」


「そんな世界があるんですね。」


「人間の世界があるなら、吸血鬼の世界もあっても不思議じゃないだろ?」


いや、不思議なことしか無い。



「吸血鬼というのは血を吸わないと生きていけない。

吸血鬼の世界では合成血液というのがあり、俺達はそれを命を繋ぐ飲水として飲み、生活をして生きている。

人間の世界でいうと、水のようなものだな。

もちろん、食べ物を食べたりする。これについては娯楽だが。」


「そうなんですね。で?」


「その合成血液を製造、運搬、配給までしているのが吸血鬼の世界で頂点に君臨する国王…。

俺の父上だ。」


「えー!!!ルキさんは国王の息子…王子になるんですか?」


「第3王子になる。」


「そんな王子がなぜ、この世界に来たんですか?」


「実は、国王が病に倒れたんだ。」


「なっ!」



真緒は心配そうにルキを見る。


「それが結構複雑なんだ。

国家転覆を狙う敵対勢力が国王を暗殺するために合成血液に、何種類もの動物の血を混ぜた劇薬を入れた。

そして、それを国王に合成血液として差し出し、それを国王が誤って飲んでしまったんだ。」


「え…動物の血はだめなんですか?」


「そう、動物の血は俺達にとっては悪影響なんだ。体が急速に衰え、死を迎える。」


「そうなんですね。

しかし、ドロドロの争いですね。」


「暗殺しようとしたやつは国王の実の弟なんだ。

国王の実の弟は、権力欲しさに、国王の座を狙い、部下に実の兄の暗殺を命じたんだ。」


まさかの身内が敵。

真っ黒な世界だな。ますます関わりたくない。


「国王の実の弟も大きな権力を握っているから、下手に動けない。

第1王子は国王の側を離れられない。第2王子は敵対勢力の情報を集めている。

で、自由に動けるのが比較的、目立たない第3王子の俺ってわけ。

だから、国王の病を治すため、第3王子の俺がこの世界にあるという”奇跡の血”を見つけに来たんだ。」


「”奇跡の血”?ってなんですか?」


「”奇跡の血というのはどんな病でも治す美しい神の血だ。

別名”復活の血”ともいう。」


そんな話し、聞いたこともない。

そもそも、そんな血なんてあるのだろうか?


「この世界に来る途中に、敵対勢力に”奇跡の血”を見つけに行くのがバレて、襲撃を受けたんだ。

なんとしてもこの世界に行かせるのを阻止したかったんだろう。」


「だから、血だらけだったんですね。

ひどい傷でしたもん。」



「正直、この世界に来るのもギリギリだったよ。

なんとかうまく逃げ切ることができた。

そんな状況のときに、たまたま真緒が居たんだ。」





私の運って最悪だ。

そんな感想だった。

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